以前として猛威を振るう新型コロナウイルス(COVID-19)。ワクチンのお陰もあって、以前より重症化及び死者を減らす事に成功している。
とはいえ、そのまま終わりにしてはワクチンに依存しているだけだ。インフルエンザが「風邪のようなもの」と世間から認識されているのは(それはそれで誤った見方だが)、ワクチンの他に有効な治療法や治療薬がある程度確率されている面も大きい。
COVID-19は今後どうなっていくかまだ分からない。だが、パンデミックを引き起こしたほどの強力なウイルスなのだから、将来的にもたびたび感染者が出る事も視野に入れておく、つまり有効な治療法や治療薬を開発する必要は間違いなくあるだろう。
重症化しやすい糖尿病患者
既に既知の事ではあるが、糖尿病患者は重症化しやすい傾向にある。死亡率が高いのは勿論、重症化する事で病床が圧迫される側面もある。そのため、多くの国でのワクチン接種も既往症を持った者が優先された。
重症化しやすい条件は多々あるものの、特に死者や重症者を大量に出した米国で人口の10%以上が罹患している2型糖尿病患者が感染し、サイトカインストームを引き起こす症例が頻発した。
COVID-19の重症化は免疫の暴走によるサイトカインストームが一因であったが、メカニズムが不明瞭なままだった。この度の研究でこのメカニズムが明らかになったと言う。
原因は、「SETDB2」と呼ばれる酵素
結論から言うと、原因は、「SETDB2」と呼ばれるヒストンメチル化酵素だと考えられるのだという。
SETDB2は、糖尿病患者に見られる「慢性的な傷」にも関係しているとされている。
ミシガン大学医学部外科学教室および微生物学・免疫学教室のキャサリン・ギャラガー教授の研究室に所属するW.ジェームス・メルビン教授らは、COVID-19の患者がICUで炎症の暴走とこの酵素との関連性を調べることにした。
検証内容
COVID-19に感染したマウスを用意、糖尿病に感染したマウスのマクロファージと呼ばれる炎症反応に関与する免疫細胞で、SETDB2が減少していることを発見した。
その後、糖尿病且つ重症化した感染者の血液中の単球・マクロファージでも同じことが確認された。
メルビン教授とギャラガー教授は、マウスと人の両モデルにおいて、SETDB2酵素が低下すると炎症が増加したと指摘。さらに、感染時のマクロファージでは、JAK1/STAT3と呼ばれる経路がSETDB2を制御していることも明らかになったのだ。
治療法の確立に活路
これまでの研究で、ウイルス免疫に重要なサイトカインであるインターフェロンが、創傷の治癒に応じてSETDB2を増加させることが明らかになっていた。
そして、今回の研究で糖尿病で重症化したCOVID-19患者の血清中には、糖尿病でない感染者に比べてインターフェロンβの濃度が低下していることも判明した。
研究チームは、COVID-19に感染した糖尿病のマウスにインターフェロンβを投与し、SETDB2酵素を増加させ、炎症性サイトカインを減少させる事に成功した。
重症化前に糖尿病患者にインターフェロン投与
少なくとも糖尿病でサイトカインストームが頻発するのは、SETDB2の機能不全が原因である可能性が高い。
この研究は、糖尿病患者の感染初期にインターフェロンを投与することで、確定的では無いにしても重症化を防げる可能性があることを示したのだ。
国際糖尿病連合(IDF)の発表によると、世界の糖尿病人口は4億6300万人、実に11人に1人 65歳以上では5人に1人が糖尿病だと言われている。
糖尿病患者の重症化にフォーカスした今回の研究は今後もCOVID-19患者が後を絶たない可能性を考えると、非常に有益な結果となるかもしれない。