歴史・考古学
スキタイ人の墓地付近で珍しい銀のプレートを発見。(出典:Wikipedia

紀元前のユーラシア大陸の遊牧民だったスキタイ人の墓と、神話を模した皿がロシアで出土。

人類が「人類」に進化し、いつしか文明、コミュニティを作るようになっていった。そのうち彼らは自らのコミュニティを守るため、或いはより大きな富や権力を得るために、政治的に、時に軍事的に、争い、勝利する事でその民族を取り込み、縄張り、つまり勢力を拡大するようになった。

その勢力争いに負けたコミュニティの中には当然ながら歴史から姿を消した民族もある。基本的に多くの場合、歴史とは生き残ったものによって語り継がれるため、勢力争いに負ける等で歴史から姿を消したコミュニティの情報は非常に限られる。

例えば日本で勢力争いに負け、取り込まれた民族に北海道のアイヌ民族が存在する。19世紀に勢力の強い民族が領土拡張の際、世界各地で多くの先住民族を自国になかば強制的に編入する流れがあり、アイヌも同様の運命をたどった末に日本国民またはロシア国民となった。今では正確実態数は把握できておらず、「民族の存在」は失われつつある。

このように失われた民族の中に、「スキタイ人」という、情報の少ない民族がある。

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スキタイ人とは

ドラクロワが描いたスキタイに亡命するローマの詩人、オウィディウス。(Wikipedia


スキタイ人とは、紀元前900年~紀元前200年頃に、ウクライナを中心とし、広くは現在のシベリア南部にまで拠点を置いて活動していた遊牧騎馬民族および遊牧国家だ。

最盛期には黒海から中国、中東にまで影響力が及んでおり、遊牧民という形態ながら農耕にも勤しんだり王族がいたり、政治や宗教、独特の芸術なども存在する大きな国家となっていた。

スキタイ - Wikipedia

信仰は主にギリシア神話の神々で、ヘスティア、ゼウス、ガイアやアポロン、アプロディーテにヘラクレス、アレスなどを信仰し、王族は更にポセイドンも信仰したが、夫婦が異なったり、呼び名なども違いがみられた。

スキタイ人に関する記録は多くはないが、古代ギリシアの歴史家ヘロドトス(Wikipedia)が自身の著書「歴史」にスキタイ人の起源に関する説をあげている。

ヘロドトスの「歴史」では、スキタイ人は戦って勝利した敵の血を飲み、人身御供をしていた等、儀式に敵の身体を使用していたと伝えている。以下はWikipediaの引用だ。

戦争で生け捕った捕虜の中から100人に1人の割合で生贄を選び、その者の頭に酒をかけてから喉を切り裂いて血を器に注ぎ、その血を御神体である短剣にかける。一方で、殺された男たちの右腕を肩から切り落として空中に投げ、儀式が終わるとその場を立ち去り、右腕と胴体は別々の場所に放置される。

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スキタイ人の墓を発掘

スキタイ人の墓。武器や馬具なども一緒に埋葬されていた。(出典:ロシア科学アカデミー考古学研究所


ロシア科学アカデミー考古学研究所(IA RAS)は、ロシア西部のオストロゴジスク郊外にあるデヴィツァの町の近くで紀元前4世紀頃のものと思われる木製の墓を発見した。

スキタイ人の墓の多くは数世紀前に略奪されてしまったが、この墓の屋根は崩壊していたため、墓荒らしから守圧れていたと思われる。

墓には40代の男性の骸骨が納められており、さまざまな武器や道具、装飾品、生け贄と思われる別の遺体と共に埋葬されていた。

鉄製のナイフ、槍の穂先、馬具類、儀式的な食事をしたと思われる馬の肋骨などを発見したほか、オオカミの形をした6枚の銅板も発見された。

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更に珍しいプレートを発見

プレートには戦女神アルギンパサをはじめ、翼を持った神やグリフォンなどが描かれていた。(出典:ロシア科学アカデミー考古学研究所


発掘チームは更に墓の北東部で、珍しい銀製の四角いプレートが、木製の台座に小さな銀の釘で留められていたのを発見した。このエリアは2010年以来調査チームが様々な墓や遺跡を発掘しているがこのプレートは非常に珍しいものだという。

銀のプレートにはスキタイ人が信仰していた戦女神アルギンパサ(ギリシア神話ではアフロディーテ)や翼を持った神、複数のグリフォン、その他の幻想的な生き物が描かれていた。

アルギンパサの両脇には、鷲の頭と翼、獅子の胴体を持つ神話上の生き物であるグリフォンが描かれている。紀元前3300年頃に小アジアをはじめ様々な場所で描かれていたグリフォンは、スキタイ美術ではアルギンパサと一緒に描かれることが多かったようだ。

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珍しいケース

出土時のプレートの様子。(出典:ロシア科学アカデミー考古学研究所


主任考古学者のヴァレリー・グルヤエフ氏によると、スキタイ人が信仰した神々を描いた工芸品が、スキタイの主要な中心地から遠く離れた場所で発見されたのは初めてだという。

また、1つのアイテムにこれほど多くの神々が登場することは非常に珍しく、墓の男性の身分やプレートの詳細など更なる研究に期待がかかる。

IA RASは、翼を持った神が誰なのか、このプレートが何を飾っていた物なのかは、まだ未解決の問題で、今後の研究課題となっているようだ。

知られざる謎の遊牧民族、スキタイ人について、今わかっている事を学んでみよう。

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参考文献

歴史・考古学
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Amet

旅行が趣味の団塊ジュニア世代。旅先で歴史を学んだり遺跡を見学したりその土地の食べ物を楽しむ事をライフワークにしています。本業はテクノロジー/マーケティング関係で情報収集と分析が専門です。

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