2021年9月16日、MedRxivに「mRNA COVID-19ワクチン接種とCMRで確認された心筋炎の発症について」といった旨の論文が提出された。
この論文によると新型コロナワクチン接種による心筋炎のリスクが1,000分の1(0.1%)であると主張していた。
この研究結果はオタワ大学心臓研究所の研究者が行ったもので、新型コロナワクチンの使用は安全ではないという考えを広める結果となった。
この論文の内容が誤りであったため、論文は撤回され、研究者たちは謝罪する事となった。
分母が異常に少なかった
計算違いの原因は分母が極端に少なかった、という点だ。心筋炎(心筋の炎症)の発生率は、オタワでのCOVID-19ワクチンの接種数を、心臓疾患の発生数で割って算出していた。
研究者らの計算では、心筋炎のリスクは1,000人に1人、つまり0.1%だった。この時に使われた分母である接種数は32,379本だったが、実際にはその25倍の854,930本だった。
この事実の発覚により、論文を提出した研究チームは謝罪(魚拓)する事になった。
ロイターによるファクトチェック
撤回されたプレプリントを受けて、米国疾病予防管理センター(CDC)の広報担当者は、2020年12月14日から2021年6月26日の間でmRNAワクチンを接種した後の有害事象をワクチン安全データリンク(VSD)のデータを用いて監視した研究結果をロイターに送り、ロイターがファクトチェックとして記事を公開した。
内容は「全年齢での分析結果で、心筋炎・心膜炎とmRNAワクチンとの間に有意な関連性は検出されなかった」としながらも、「若年者におけるmRNAワクチンと心筋炎・心膜炎との関連性を示す証拠はある」というものだ。尚、ワクチンよりもCOVID-19への感染によって心筋炎を発症する可能性が6倍高いという論文が提出されているがこちらもプレプリントとなっている。
CDCでは、若年男性がmRNAワクチンの2回目の接種後に心筋炎になるリスクが高いとしているが、ワクチンの利点は依然としてこのリスクを上回っているとアナウンスしている。
誤情報が広まる事の問題と解決策
こうした誤情報が広まる事の一番の問題は、誤った情報であると後に撤回されたときに、誤情報を広めてしまった者の多くが撤回しない、或いは撤回した旨を知らない、という点だ。
全ての者がソース元を確認するとは限らないため、1次ソースが撤回されてもブログやSNS等で拡散に貢献した2次ソースが撤回されなければ、2次ソースを見たものは誤情報を受け入れる。
こういった理由により、1次ソースが撤回されても誤情報が拡散され続ける可能性がある。これはパンデミック時に起こるインフォデミックと呼ばれる現象の1つで、非常に厄介なものだ。
このような問題はどう解決すればいいのか。
- プラットフォーム(SNSやブログの運営会社)側で誤情報が拡散されないよう対策する
- 個々人が必ず1次ソースを確認し、査読された論文である事を確認するという教育を国や自治体が行う
- 誤情報を拡散する者の周囲が正しいソースを提示した上で否定する、或いはプラットフォームに報告する
などが考えられるが、そもそも誤情報を誤情報だと受け入れられない者(陰謀論者など)もいるので抜本的解決に至るかは不明だ。
大事なのは、情報を得た際に鵜呑みにせず、一歩下がって見る事だろう。例え、人の言った事が自分にとって「やっぱりそうだったか」と思う内容でもだ。
情報は得るのが目的ではなく、使うのが目的なのだから。