動物
人の脳はある時期を境に縮小し始めた。その理由とは。

人間の脳は数万年前どころか、3000年前でさえも縮小に転じていた事が判明。その理由とは。

人は猿から人へ進化するにあたり様々な変化があった。2足歩行になり、バランス感覚が増し、手先が既往になって道具を使うようになり、思考し、言葉を話す様になっていった。

これら全ての進化には必ず脳が関わっている。人の進化で特に脳は、他の動物に比べ、体の大きさに対して大きすぎるほどに進化していった。

だが、奇妙な事に数万年前を境に、逆に縮小に転じたのだ。驚くべきことに、脳の縮小傾向は3000年前という非常に最近の時代でさえ見られたのだと言う。一体、人類に何が起きているのだろうか。

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脳の縮小は最近まであった

脳は思っていたよりも最近まで縮小傾向にあった。


ボストン大学のジェームス・トラニエロ博士を含む研究チームは3,000年前(完新世)頃に脳のサイズが小さくなっている事を確認した。

研究チームは、化石と現代人の頭蓋骨985個のデータセットに変化点分析を適用、その結果、人間の脳は更新世にはサイズが大きくなったが、3,000年前(完新世)頃には縮小傾向がみられた。

人間の脳が進化の過程で大きくなってきたことはよく知られている。一方で、更新世以降、人間の脳は小さくなっているという事実はあまり知られていない。

この研究結果の論文は「Frontiers in Ecology and Evolution」誌に掲載されている。

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なぜ小さくなっているのか


人の進化の過程で脳は特に進化した。前述通り、人がこれまで発展したのは知能の飛躍的向上、つまり脳の進化のお陰に他ならない。人類の進化の歴史の中で、人間の脳の大きさは劇的に増大したのだ。

ところが、その脳が逆に縮小に転じてしまっている。これは「進化」なのか、それとも「退化」なのか。なぜサイズが小さくなったのかは人類学者にとって大きな謎だった。そもそも、脳が増えたり減ったりする理由を化石から読み解くのは非常に難しい。

この謎を解明するため、研究チームは人間の脳の進化の歴史的パターンの研究に着手し、その結果をアリの社会性と比較することで、幅広い洞察を得る事にした。

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アリと比較し、仮説をたてる


アリとヒトの社会は大きく異なるし、社会的進化の過程も異なっている。一見、比較対象として不適切に感じるかもしれない。

だが、研究チームはいくつかのアリ科における働きアリの脳の大きさ、構造、エネルギー使用のパターンと計算モデルを研究した結果、集団レベルの認知と分業が、適応的な脳の大きさの変化を選択する可能性がある事が判明したため、ヒトの社会との共通点からヒトの脳の大きさの変化に影響を与える要因を広く知ることができると考えた。

つまり、脳のサイズが拡大から縮小に転じた理由に「社会性」が関係しているという仮説を立てたのだ。

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「群衆の知」

人は群れを作り、集合知を増強していった。


「群衆の知」という言葉を知っているだろうか。初めてこの言葉を使ったのはアリストテレスとされており、著書「政治学」にて言及されている。

集団で情報を集めて出す方が、個人で出すよりも良い結論になる、という考えだ。自分で知らずとも他者が知っていて、且つその他者がコミュニティに存在していればその知恵を持っているも同然となる。

つまり、知恵の外部化及び共有だ。例えば人は電車や車を使って効率的に移動する事が出来るが、電車や車を作る事が出来なくても使う事出来る。これは知の外部化であると言えるだろう。

ある者は車を作り、ある者は食物を作り、ある者は作られたものの使い方を教える。こうして我々は社会全体で「群衆の知」を進化させている。

研究チームはこれが脳の縮小につながったという仮説を立てた。人口が増え、個々が知を分担する事で「人類という種として進化した」という説だ。

その結果、脳は縮小し、より少ないエネルギーで済むようになったが、その代償(と言っていいか分からないが)として社会への、つまり集合知への依存度が高くなった。もはやコミュニティ無しで生きていくのは難しいだろう。

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他の仮説の支持ではない


ヒトの脳は、チンパンジーとの共通祖先を持つようになってから600万年の間に約4倍の大きさになったが、最後の氷河期の終わり頃からサイズが減少したと考えられている。

今回の研究は変化点解析を用いて、ヒトの脳の進化速度の変化のタイミングを推定したものだ。この年代測定は脳のサイズ縮小が体のサイズの縮小の副産物であるとか、農耕食への移行の結果であるといった仮説を支持するものではない。

分散型認知や情報の保存・共有といった社会システムの登場により、知識の外部化や集団レベルでの意思決定の優位性に起因するのではないかという仮説を提案しており、仮説は仮説にすぎない。

だが、アリの驚くべき生態学的多様性とその種の豊富さは、大きなコミュニティ、農耕生活、分業、集団的認知など、人間の社会性の側面に収斂する形態を包含している。ヒトとアリは社会的・認知的進化の経路が大きく異なるが、アリが提供する知見は、脳の大きさに影響を与える選択的な力について広く知ることができるし、脳の進化のパターンを解釈するのに役立つだろう。

進化は種族によって異なる。人と他の動物を比較して共通点を探るのも面白いかもしれない。

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参考文献

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Amet

旅行が趣味の団塊ジュニア世代。旅先で歴史を学んだり遺跡を見学したりその土地の食べ物を楽しむ事をライフワークにしています。本業はテクノロジー/マーケティング関係で情報収集と分析が専門です。

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