自然
マグマを観測する事で火山災害を予知するプロジェクトが進行中だ。

世界初の地下マグマ観測所が発見した、火山の内側にある秘密とは

世界に存在するあらゆるものは、基本的にどんなものでも科学者達の研究対象だ。人間社会はまだまだ数多の問題を抱えている。今まで同様に解決策を模索する事が人としての種の繁栄に繋がる。

人の研究対象で特に難しいとされるのが、人が直接アクセスできないエリアだ。呼吸が出来ず重力に逆らう必要がある宇宙、呼吸が出来ず水圧に逆らう必要がある深海、そして、やはり呼吸が出来ず超高熱に逆らう必要がある地下マグマだ。

アクセスしにくいため、調査にも限界が生じ、十分なデータが得られない。このアクセスしにくい場所の調査が捗れば未知なる発見に繋がる可能性も高くなる。

スポンサーリンク

世界初のマグマ観測所


2014年から始まった世界初のマグマ観測所を作る、というプロジェクトが進行中だ。設置予定の場所は場所はアイスランドの北東部で、火山の中心部に2kmの距離を掘削する準備を進めている。

120億円規模のこのプロジェクトには、英国、カナダ、デンマーク、フランス、ドイツ、日本など12カ国の約50の研究機関や企業の科学者やエンジニアが参加(ソース:PDF)しており、国際的な研究チーム「Krafla Magma Testbed(KMT)」を発足、2024年に最初の掘削を開始する予定だ。

科学者たちは、このプロジェクトが基礎科学の進歩や、いわゆる「超高温岩」の地熱発電につながること、また、火山の予知やリスクに関する知識がさらに深まることも期待されている。

イタリア国立地球物理・火山研究所(INGV)の火山学者、パオロ・パパレ氏は、「ハワイやケニアの火山、そして2009年のクラフラ火山での掘削中に偶然遭遇したことを除けば、地下のマグマを観測した過去は無い。KMTは世界初の地下マグマ観測所だ。」と語っている。

スポンサーリンク

火山噴火という災害への対応

2021年現在、アイスランドにハワイにカナリア諸島、イタリア、インドネシアと、世界は例年より多くの火山被害に遭っている。日本国民であれば火山噴火の脅威は十分知っている事だろう。

特に2021年で大きな被害を被ったのがカナリア諸島のクンブレビエハ火山で、住民は避難を強いられ、結果的に町の殆どを火砕流が飲み込んだ。

日本でも桜島や浅間山が噴火している。そして忘れてはいけないのが富士山だ。観光地と化しているものの、富士山は火山である。それも、現在は「活火山」という位置付けなのだ。

スポンサーリンク

富士山は活火山であると定義を見直し


火山には火山学上の定義として、「活火山」「休火山」「死火山」が存在する。富士山は以前は休火山という位置付けであった。

しかし、火山の長い歴史を考えると、例え長く噴火していなくても、いずれ活動を再開する可能性があると気象庁が見解を示し、富士山が休火山であるという定義が見直され、活火山であると新たに位置付けた。

これを受けて政府は富士山噴火のハザードマップを作成し、一般公開した。

http://www.bousai.go.jp/kazan/fujisan-kyougikai/report/

火山噴火の予知や観測は日本にとって対岸の火事などではなく、むしろ当事者に他ならない。地震大国でもあるため、マグマ観測は無視するわけにはいかないだろう。

スポンサーリンク

掘削時に驚くべき発見


2009年、アイスランド・クラフラの地熱発電所の拡張工事を行っていたとき、深さ2.1kmの地点で、ドリルが900度のマグマのポケットに偶然当たってしまい、溶岩が9m上まで流れて掘削材が破損した。

幸運にも噴火は起こらず、負傷者も出なかった。この時、火山学者たちは、約5億㎥と推定されるマグマポケットに手が届くところにいると気が付いたのだ。

火山学者たちは4.5kmのほど掘らないと発生しないと計算していたため、このような浅い場所にマグマがあったと非常に驚いた。その後の調査で、このマグマは1724年の噴火のものと似た性質を持っており、少なくとも300年前のものであることがわかった。

地質や歴史、過去のデータから想定するものの、現実は大きく異なる事がある事が分かる。事故や災害を未然に防ぐためにもマグマ観測所は地球に暮らす者にとって必要な施設となるだろう。

スポンサーリンク

技術的な挑戦


今回の発見は、事故や被害者がいなかった事も幸運であったが、同時に発電所を運営する国営の電力会社Landsvirkjun社にとっても幸運な出来事だった。

液体のマグマに近い岩石は、液体と気体の中間の状態である「超臨界」状態になるほどの高温となる。ここで発生するエネルギーは、通常のボアホール(ボーリングで空けた穴)に比べて5〜10倍の威力を持つ。

今回の事故では、地表に上がった蒸気の温度は450℃で、火山の蒸気温度としては史上最高だった。超臨界圧の井戸が2つあれば、現在18のボーリング孔で供給されている60メガワットの発電能力を十分に発揮することができる。

Landsvirkjun社は、KMTプロジェクトがこれまで不可能だった地熱エネルギーを利用するための新しい技術につながることを期待していると考えている。

スポンサーリンク

問題点


だが、話はそう簡単ではない。前述したように地下マグマの調査が困難なのはアクセスするのが難しいためだ。高熱のエリアを掘削するには超高温の蒸気による腐食に耐えられる素材が必要となる。

更に、掘削作業が火山の噴火を引き起こす可能性も否めない。この点はKMTプロジェクトの発起人の一人であるアラスカ大学フェアバンクス校の地球物理学者、ジョン・エッシェルバーガー氏も心配だと話す。

今まで同様の事故が起きたのは3度あるが、今のところ特に噴火を促したり被害者が出るなどは起きていない。だが、今後も起きないとは限らないだろう。プロジェクト開始となる2024年までに1つでも多くの問題が解消されると良いのだが。

数百年という月日は人間には長くても地球にとっては僅かな期間に過ぎない。富士山は「活火山である」と認識しなおし、来るべき日に備えよう

スポンサーリンク

参考文献

自然
この記事を共有
購読する
Amet

旅行が趣味の団塊ジュニア世代。旅先で歴史を学んだり遺跡を見学したりその土地の食べ物を楽しむ事をライフワークにしています。本業はテクノロジー/マーケティング関係で情報収集と分析が専門です。

購読する
地球ヤバイ!