2020年12月17日、中国で開発された嫦娥5号が月のサンプルが入ったカプセルと共に、無事地球に帰還した。月のサンプルを地球に持ち帰ったのは、アメリカのアポロ計画や旧ソ連のルナ計画以来44年ぶりとなった。
月は地球にとって欠かせない存在であり、地球の成り立ちを知る上で重要な存在でもある。月の解明は地球に解明に繋がるし、地球の未来にも貢献する。
月の解明は月の調査が必要だ。その調査に必要な月の素材サンプルの解析の結果、新しい月の事実が判明した。
19.7億年には月にまだ溶岩が存在した
月は地球の誕生とほぼ同時期で46億年前だ。昔は月が誕生して15億年、つまり30億年前には収束したと考えられていたが、日本の月周回衛星「かぐや」の観測により少なくとも25億年前まで火山活動があった事が分かっていた。
今回の調査結果はこのデータのアップデートとなる。結果として、19.7億年には月にまだ溶岩が存在していたのだという。
この調査結果は「Science」誌にて掲載されている。
4国の合同研究
中国、オーストラリア、スウェーデン、米国の合同研究チームは中国の宇宙機関が嫦娥5号のミッションで月から採取したサンプルを研究した。
嫦娥5号は、ロボット着陸機を含む無人のミッションで、2020年12月に月の表側(地球に面した側)に着陸、1.7kgの月の岩石を地球に持ちかえる事に成功した。
嫦娥5号のミッションの目的は、月で最も若い火山噴火の証拠を見つける、というものだ。これまでにも、月面の衝突クレーターの数を調べることで、この年代の火山岩が月に存在することが予測されていたが、サンプルがなければ確認することができなかった。
調査内容
サンプルの分析は、中国・北京の中国地質科学院にある高感度高分解能イオンマイクロプローブ(SHRIMP)という装置を使って行われた。
玄武岩(火山性の岩石)の約2ミリの小さな破片を、手作業で選んで調査し、アポロのプロジェクト時のサンプルを分析するために開発された技術を用いて分析が行われた。
岩石の年代を決定するプロセスは複雑だが、基本的には、荷電粒子ビームを使って岩石のさまざまな鉱物相から物質を放出し、放出された物質を分析する、という方法が採用される。
その結果、これらの溶岩の噴火年代は19億7,000万年となり、これまで月の玄武岩質溶岩の年代よりもかなり若いことが分かった。
新たな謎
月の表面では、過去に多くの火山噴火が起こり、「月の海」と呼ばれる大きな玄武岩の平原が形成された。月を見上げると暗い斑点のように見えるものが「月の海」だ。
火山活動の殆どは30億年前から40億年前に起こったもので、この事はアポロ計画やルナ計画のサンプルから採取された玄武岩や、月から飛来した隕石の年代を測定して判明している。
火山噴火が起こるためには、惑星内部に熱が発生し溶融物質が生成される必要がある。月の大きさ的には20億年前の噴火の前に、この内部熱は失われると考えられる。
だが、今回の研究結果により、月のような小さな岩石質の惑星が、45億年前に形成されてから25億年経っても火山噴火を起こし続けるだけの内部の熱を保持していたという新たな謎が生まれた事になる。
これまで、月の内部に存在する高濃度の放射性元素が月の内部の岩石物質を溶かしたのではないかと考えられてきたが、今回のサンプルの組成を見る限り、それが原動力ではないことが分かる。
考えられる可能性
月・地球・太陽の重力による伸縮(ゴムひもを伸ばすと摩擦で温まるようなイメージ)で月の内部に熱が発生する、いわゆる潮汐加熱(ちょうせきかねつ)が関与しているかもしれない。
あるいは、月のマントルの組成に特徴があるために溶融温度が低くなり、溶融物質が形成された可能性もあるだろう。
現在、この疑問を解明するために、サンプルの更なる分析を続けている。
今回の研究は、他惑星からサンプルを持ち帰り、その秘密を解明することの科学的価値の高さを改めて証明した事になるだろう。