宇宙
地球への惑星衝突を防ぐ「現実的」な方法を探る。

地球への小惑星の衝突を防ぐ方法は、現状は重力トラクターが最適か。

地球の危機、と聞くと人は何を思うだろうか。内容にもよるだろうが、今生きている人類が個人の生命の危機を感じる事は合っても、普段地球の危機を感じる者は多くないように思う。

それゆえに、アルマゲドンディープインパクトなどのヒット映画を見るに、隕石や彗星の衝突による地球の危機をテーマとした映画は「こういう可能性もあるのか」と、非常にリアルに感じたものもいるのではないだろうか。

実際、ハワイで2012年に初観測された小惑星(2012 TC4)が2017年に地球に衝突するコースにあった。幸い回避されたものの、地球から6800kmというスレスレのコースで、文字通り地球の危機であった。

An Asteroid Headed Our Way Is About to Test NASA's Planetary Defence System
Our Solar System is littered with chunks of space rocks that whizz around in different orbits and varying speeds - and it's no big deal until one of those rocks...

このようなケースをNASAを始め各国の宇宙研究機関は想定しており、防衛策も講じているが、実際どういった方法が防衛として機能するのだろうか。

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核爆弾で爆破する


2017年に地球衝突コースにあった「2012 TC4」は直径約10mほどで、そこまで大きくはない。

6600万年前に地球に衝突し、大量絶滅を引き起こした小惑星は直径10~15kmほどで、2012 TC4の100倍のサイズだ。

6600万年前に小惑星が地球に衝突し、何が起こったのか。
地球が誕生して46億年、生命が誕生したのが38億年前と言われている。今後の研究や発見でこの認識は変わるかもしれないが、現状ではそのようになっている。 それから2021年の今までで、地球上の生命たちは5度の大量絶滅の危機を経験しており、...

人類が死滅するような危機ではないが、危機である事に違いはなく、衝突を避けられない場合は対処する必要がある。が、多くの者はアルマゲドン等のように核爆弾などで爆破するイメージが強いかもしれない。

だが、これは映画の話であくまでフィクションだ。方法の一つではあるだろうが、現実的ではないし、そもそも誰かを犠牲にする方法をとるのは国際社会が許さないだろう。

基本的に小惑星衝突の回避の方法として核爆弾で爆破する方法は「ありえない」と思っていい。では、どのように衝突を防げばいいのだろうか。

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破壊は更なる脅威になる可能性も


2012 TC4は時速25000kmという速さで接近した。6600万年前に地球衝突した小惑星は地球の重力も重なって衝突時は時速72000kmの速度だった。

驚異的なスピードだが、衝突前に観測出来れば軌道が読めるし、衝突するまで時間が取れる。時間が取れるのであれば、現状もっとも最適な方法は重力トラクターだろう。

そもそも「爆破」そのものが成功せず、表面だけ削って終わり、という失敗も想定できるし、粉々になったために隕石となってより脅威になる可能性もある。

爆破は成功率はもちろん、爆破した後が予測不可能なため、破壊せず、接触せずに回避する手段が現実的だろう。

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重力トラクターで回避


このような脅威を回避する策としては以前から「重力トラクター」という方法がNASAを始め様々な機関等で検討、研究されている。

Page Not Found - NASA

重力トラクターとは、人工物に重力を持たせ、その重力で小惑星や隕石を引き寄せ、軌道を変える、というものだ。重力で牽引するイメージが分かりやすいかもしれない。

小惑星や隕石に接触する必要がなく、破壊する事で別の脅威を生み出す心配もない。誰かを犠牲にする必要も無い。必要なのは重力の役割を果たす人工物の設計だ。

ミネソタ大学のヨハネス・ケテマ博士は、この最もシンプルな小惑星防御メカニズムをより効果的にする飛行パターンを開発した。

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4つの重力トラクター法

上の動画は重力トラクターの解説動画だ。興味があれば見てみて欲しい。尚、現在開発されている重力トラクターには4つの方法がある。

1つは静止型で、比重の重い探査機を横に停めて、ゆっくりと別の軌道に引き込むもの。

2つ目はハロー軌道型で、探査機が対象物の周りをゆっくりと回り、特定の方向に押し出すように設計されている。

3つ目は太陽帆搭載型(Wikipedia:太陽帆)だ。複数の探査機が対象物を邪魔しないようにしつつ、ゆっくりと動き、協力して軌道を変えるというもの。

そして4つ目が今回ケテマ博士が開発した「制限付きケプラー運動」による回避策だ。

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静止軌道とハロー軌道のハイブリッド

重力トラクターの図解(出典:Wikipedia


ケテマ博士は研究により静止軌道とハロー軌道の両タイプを改良したハイブリッド型を提案した。この回避策は2017年に論文として提出されたが、今回は探査機に必要な重量を減らすことで軌道を改善する方法に修正し、論文として提出された。

この新しい回避策は「制限付きケプラー運動」と呼ばれるもので、小惑星の特定の面で探査機を前後に動かし、特定の方向にできるだけ強制的に移動させようとするものだ。

この回避策を実現する為に、博士は数学的最適化に着目。最適化問題では、目標と制約条件がある。目標は「小惑星を危険な軌道から外す」、制約条件は3つある。

1.小惑星に接触しない
2.スラスター(Wikipedia)で小惑星を叩かない
3.重力トラクターが仕事をするのに十分な時間を確保する

3つ目の制約条件については、10年程度との予測を出した。つまり、小惑星の防衛戦略における早期発見の重要性を示している。

早期発見には重力トラクターが小惑星に到達するまでにかかる時間も重要だ。探査機の重量はツールの効果を決定する重要な要素であるため、燃料が燃え尽きるほど(つまり、探査機が早く所定の位置に到着しなければならないほど)、小惑星の軌道を変える効果が下がってしまう。

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シミュレーション

博士はこの4つ目の回避策を検証するため、既存の小惑星「2007 VK184」を対象にシミュレーションを行い、より安全な軌道に移動させることができると計算された。

2007 VK184」は間もなく地球の傍を通過する軌道にあるが、衝突の心配はない。だが、2048年に衝突する軌道にあるため、今回のシミュレーションの対象としては適役だろう。

計算上は成功したが、問題はまだまだある。重力トラクターの効果は対象物とのサイズが関係してくるため、小惑星が大きすぎると成功率が下がる。

また、惑星には球状の重力場がないため、より安全な軌道にそらすための最適な軌道を計算するのが難しいことにある。軌道変更後の挙動を読めなければ爆破する方法のリスクと同じリスクを背負う事になるだろう。

このような問題あるため、準備にかける時間があればあるほど成功率も上がるだろう。衝突リスクのある小惑星を出来る限り早めに、出来る限り1つでも多く見つけ出す事が重要だ。上の動画は小惑星を見つける様々な方法をレクチャーする動画だ。小惑星の発見は民間でも十分可能。興味ある者は地球を守るためぜひチャレンジして欲しい。

高性能な望遠鏡も今は手軽に手に入れる事が出来る。

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参考文献

宇宙
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Amet

旅行が趣味の団塊ジュニア世代。旅先で歴史を学んだり遺跡を見学したりその土地の食べ物を楽しむ事をライフワークにしています。本業はテクノロジー/マーケティング関係で情報収集と分析が専門です。

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