イギリスのグラスゴーで開催されていたCop26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)が成果文書であるグラスゴー気候合意を採用して閉幕した。
気候変動による地球環境は人類の命を今既に脅かしている重大な危機であり、この気候変動は人が原因である事は査読済みの気候変動に関する科学論文のうち99.9%以上が同意している紛れもない事実だ。
地球で高度な文明を築いた人類はその文明の代償に気候変動による自然災害で自らの命を落としている。だが、この気候変動を抑える事が出来るのも、また培った高度な文明によって可能となる。
世界のCO2排出量の40%近くを占めるもの
気候変動についてはCO2排出量が必ず話題の中心となる。CO2排出量を減らす事が最も効果的で、且つ唯一人類が文明で対応できる選択肢だからだ。
CO2排出で取り沙汰されるのが発電と車だ。火力発電、特に石炭を使った火力発電はCop26でも最大の争点となり、「段階的廃止(phase-out)」が提案されるもインドや中国が反発し、最終的に「段階的に削減(phasedown)」で同意された。
だが、実はあまり目立たないが世界のCO2排出量の40%近くを占めるものがある。それが「建築」だ。建築には多くのエネルギーを消費する。多くの重機の稼働、排出される大量のゴミ、資材の搬入やゴミの搬出による車の移動、継続的な電気の消費など想像だけでも多くのCO2が排出される。
その40%のうち、10%は建材や建築物に起因するものだという。この点にドイツの科学者たちが着目し、新たな断熱材の選択肢となる素材を開発した。
ポップコーンを断熱材に
ドイツ・ゲッティンゲン大学の研究チームは、粒状のポップコーンで作られた断熱材の開発を発表した。この断熱材は、暖かさを閉じ込めるだけでなく、耐火性を持ち、撥水性も備えており、更に現在の選択肢よりも安価で、持続可能で環境に優しい素材だ。
優れた断熱材は暖房費を削減し、CO2排出量を削減してくれる。だが、断熱材の約90%は石油由来のプラスチックや鉱物繊維など再生不可能な素材で作られており、製造時に炭素を発生させ、建物を取り壊す際にリサイクルされることはほとんどなく、汚染を助長してしまう。
主任研究者であるアリレザ・カラジプール教授は、この自然素材の断熱材は、もはやニッチな製品ではなくなると語る。
ポップコーンのユニークな特性
カラジプール教授は2008年に映画を見に行った際、ポップコーンのユニークな特性に気が付いた。ポップコーンを指で挟んでみると、発泡スチロールの材料であるポリスチレンに似ていて感触もそっくりで同様に軽量だと感じたのだ。
更にポップコーンには、環境破壊や人体への有害性が指摘されているポリスチレンのような欠点もない。
ポリスチレンに指摘されている欠点は生分解せず、海洋生物が餌と間違えて摂取してしまう、発がん性や視力や聴力の低下、記憶力の低下、神経系への影響などとの関連への指摘されている。
更にポリスチレンを含む発泡スチロールは現在世界中で採用されているが、食品や飲料に溶け出したり、太陽光にさらされると、オゾン層を破壊する大気汚染物質が発生するなど、多くの問題が解決されないまま安価であるために過剰に使われている。
まずはポップコーンのパッケージを開発
カラジプール教授と彼の率いる研究チームは、2019年に開催された産業見本市「LIGNA」で、顆粒状のポップコーンのパッケージ「Abocorn」を発表した。
電子機器の包装や防音パネルなど様々な用途に使用できる発泡スチロールの植物由来の代替品として提供し、大きな反響を呼んだ。
これによりゲッティンゲン大学は、ドイツの建材メーカーであるBachl社と、カラジプール氏のプロセスを商業的に利用するためのライセンス契約を締結する運びとなった。
今回開発された断熱材もBachl社と研究チームによるものだ。ポップコーンを使った革新的な断熱材を市場に投入する事になる。
懸念されている事
このニュースに対して誰もが気になるのは「ポップコーンである事」だろう。これは環境にも人にも優しく、更に言えば虫にもネズミにも優しい。
発泡スチロールの代替としてのポップコーンは手に触れるものであったし、基本的に使い捨て品となる用途なのでリサイクル可能なポップコーンは代替になりえた。
だが、基本的に交換する機会も少なく、壁の中に使われて普段見えない場所に使う場合、やはり虫やネズミの被害が気になるだろう。
また、気候変動によって自然災害が多発すると、当然作物に影響が出る。その場合、価格高騰になる点も問題と言えるだろう。
これらの問題には様々なアプローチが考えられる。恐らく製品化までにはクリアされるだろう。