技術は日進月歩、進化し続けている。過去は問題なかった事が、科学の進化によって問題があった事が分かった、という話はよくある。
科学的な研究や検証は正しさを証明する。それは間違っていない。だが、研究や検証の方向性や方法は人が決める事だ。
逆に言えば検証の方向性や方法が間違っていると、その目的を正しく導き出せない。今回科学者が日焼け止めの安全性を検証する方法を変えたところ、問題がある事が分かった。
酸化亜鉛を含む日焼け止め
酸化亜鉛は亜鉛の酸化物で広い波長域にわたって光を反射し、水にも不溶である特性を持っているため、化粧品や日焼け止めによく使われる。
酸化亜鉛は安全性が高い成分だと考えられており、世界中で使われており、日本でも安全基準を満たした成分が収載される、医薬部外品原料規格2006にも収載されている。(PDFファイルの連番612に記載)
金属アレルギーを持っていなければ普通に選択する一般的な日焼け止めだ。そんな酸化亜鉛を含む日焼け止めは、2時間後に高価が失われ、毒性を示すようになるという研究結果が報告され、科学者が警告している。
実際に使用する状況を踏まえて安全性を再テスト
酸化亜鉛を含む日焼け止めは、紫外線を浴びると2時間後にはその効果が失われ、毒性を示すことが、オレゴン州立大学の科学者を含む共同研究により明らかになった。
この研究成果は、「酸化亜鉛による日焼け止め成分の有効性とUV照射下での毒性の変化」として「Photochemical & Photobiological Sciences」誌に掲載されている。
検証にはゼブラフィッシュが採用された。ゼブラフィッシュは、分子、遺伝子、細胞レベルで人間と非常によく似ており、こういった検証や研究によく用いられる。
検証の方法に疑問
日焼け止めのメーカーは恣意的と思えるような検証を行う事が多い。日焼け止めは、紫外線へ晒される機会を減らし、皮膚がんの予防に貢献する一方で、一部の成分と紫外線との間の相互作用により、意図しない毒性を持つ可能性があるかどうかは検証されない事が殆どだ。
研究者は「日焼け止めが、その使用目的である紫外線照射下で期待の反応を示した研究は多くありますが、光分解生成物についての毒性試験がほとんど行われていないことは非常に驚きです。」と語り、警告した。
研究チームは、日焼け止め成分が個々の化合物としてではなく、組み合わせて使用した場合にどの程度安全で効果的なのか、また、太陽光にさらされるという実際に使用する状況での安全性はどうなのかを検証した。
検証と結果
研究チームは日焼け止めの有効成分であるUVフィルターを含む5つの混合物を作成。また、同じ成分に加え、市販の推奨量よりも少ない量の酸化亜鉛を加えた混合液も作成した。
そして、これらの混合物に2時間紫外線を照射し、分光法を用いて光安定性を検証。混合物に含まれる化合物とその紫外線防御機能が、太陽光によってどのように変化するかを調べた。
更に、ゼブラフィッシュに対して、紫外線照射によって混合物が毒性を持つかどうかを調べたところ、酸化亜鉛を含まない混合物では、魚に大きな変化は見られなかった。しかし、酸化亜鉛を加えた場合、光安定性と光毒性に大きな違いが見られたのだ。
酸化亜鉛は有機混合物(UVフィルター等)を劣化させ、地球に到達する紫外線の95%を占める紫外線Aに対する有機フィルターの保護機能が80%以上低下、また、酸化亜鉛による光分解生成物は、毒性試験に使用したゼブラフィッシュの欠陥を著しく増加させた。
つまり、酸化亜鉛とUVフィルターなどの有機成分が配合されている日焼け止めは太陽に2時間浴びると酸化亜鉛がUVフィルター等を劣化させてしまい、紫外線を防ぐ効果がほぼなくなる、という事になる。
これは、酸化亜鉛の粒子が分解物につながり、水生生態系への導入が環境的に危険であることを示唆するものだが、前述通りゼブラフィッシュは人間と遺伝子、細胞レベルが似ているため、海洋生物だけへの影響に留まらない可能性もある。
「ナノフリー」や「ノンナノ」であるかどうかは無関係
ミネラル系の日焼け止めに「ナノフリー」や「ノンナノ」を安全性のうたい文句に使うものも多く存在する。
だが、金属酸化物粒子は、100ナノメートル以下であろうとなかろうと、どんなサイズでも表面に反応性部位を持つことができるため、今回の検証結果が覆る事は無い。
サイズよりも重要なのは、金属の正体、その結晶構造、そして正しく、実際の使用シーンを踏まえて検証された科学的な結果だ。