世界の全ての国では男女は基本的に不平等だ。いわゆるジェンダー格差は世界は勿論、日本でも社会問題となっており、この度の日本の選挙でも政策の一つとして取り沙汰された。
このジェンダー格差は国際社会でも問題として取り上げられており、世界経済フォーラム(WEF)でも各国のジェンダー格差指数を割り出し、格差をなくすよう訴えかけている。
尚、日本は2015年に101位、2016年に111位、2017年に114位、2018年に110位、2019年に110位、2020年に120位、2021年には史上最下位の121位となり、G7や先進国では大きな格差があると言われている。
日本が年々順位を下げる一方、指導者の交代が行われたアメリカではバイデン新大統領の元で社会的発言力を得た女性議員が一気に増え、53位から30位へと躍進した。
そんなアメリカでもまだまだ根強く男女間の賃金格差が残っており、原因を探るべく研究者たちがさまざまな議論を交わしたり研究に勤しんでいる。そんななか、ある説に疑問を投げかける研究結果が発表された。
「女性は男性ほど競争力がない或いは競争したがらない」
アメリカでは男女の賃金格差が大きいが、ここ10年で「女性は男性に比べて競争力が低いために、給与の高い役職に就くことができないのではないか。リスクを取りたがらないのでは。」という説が浮上している。
この説には特に根拠が無く、なんとなくそうではないか、と世間で広まった俗説に過ぎない。例えば「女性は男性に比べて数学が苦手」という説も調べた結果、差が無い事が分かった。
このように、世間には根拠のない俗説が浮かび上がる。また、2017年には「男性と競う時だけ弱いのでは」という研究結果が発表された。
このように調査するケースもあるが、そう単純な話ではなさそうだ。今回の研究結果は、そもそもこの「競争」の前提、つまり競争する目的が異なる事で競争能力が異なる事が分かった、というものになる。
敗者に賞金を分け与えるという選択肢
米国アリゾナ州自由哲学センターの副所長であるリグドン氏と、サンフランシスコ大学の経済学教授であるカッサー氏ら研究チームは、敗者に賞金を分け与えるという選択肢がある場合、女性が競争に参加する割合は男性と同じであることを発見した。
つまり、インセンティブシステムが社会的指向であるというオプションが女性の競争参加率を向上させている可能性がある。この研究結果は「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌に掲載されている。
リグドン氏は、市場構造、情報、インセンティブが人の行動にどのような影響を与えるかを研究している。過去20年間の研究では、信頼、互恵性、競争、利他主義、不正行為などに関する疑問を探り、特に性差、特に男女間の賃金格差に焦点を当ててきた。
「女性は男性に比べて競争力が低く、リスクを取りたがらない」に疑問
リグドン氏とカッサー氏は、女性が男性に比べて競争力が低く、リスクを取りたがらないという比較的新しい説に注目した。
もし女性が競争に消極的であれば、大企業のトップに占める女性の割合は少なくなるはずだが、ここ数年の傾向とは異なる。フォーチュン500社(米企業のTOP500社)を率いるCEOに占める女性の割合は約8%だ。この数字は非常に低いものの、過去最高の数字となっている。
女性の賃金が低い件で2人はいくつかの可能性を検討してきたが、そのうちの一つは「人的資本の説明」と呼ばれるもので、特定のスキルに男女差があり、女性は賃金の低い職業に就くというものだ。そしてもう一つは「特許差別」である。
両氏は女性も男性と同じように競争力を持っているが、その発揮の仕方が違うだけだと考え、実験を行う事にした。
実験詳細
研究チームは238人のボランティア参加者を、ほぼ均等に性別で分け、2つのグループに無作為に割り当て、それぞれのグループの参加者を、4人のサブグループに無作為に割り当てた。
参加者には「小数点以下2桁の3桁の数字が12個並んだ表を見て、10になる数字を2つ見つけてください」というものだ。参加者は2分間で20個の表をできるだけ多く解いてもらい、第1ラウンドで1つの表を解くごとに2ドルが支払われる、という共通条件を付けた。
続く第2ラウンドでは、参加者に同じ課題を課したが、2つのグループでインセンティブの与え方を変えた。
1つ目のグループは、4人のチームの中で最も多くのテーブルを解いた2人の参加者が、解いたテーブル1つにつき4ドルを獲得し、他の2人のチームメンバーには何も与えられない。
もう1つのグループでは、4人のチームの中で成績が上位の2人も1つの表につき4ドルを獲得出来るが、成績の悪い参加者の1人と賞金をどれだけ分け合うかを決める権利を与えた。
第3ラウンドでは、すべての参加者が、前の2回のラウンドの中から好きな支払い方式を選ぶことができた。
参加者の半数は、ラウンド1の「正解につき2ドルが保証されるルール」か、ラウンド2の「4人のサブグループで成績上位2人に入った場合は1回の正解につき4ドルが保証されるルール」かを選択した。
残りの半数の参加者は、ラウンド1の「正解につき2ドルが保証されるルール」か、ラウンド2の「上位2名の正解につき4ドルが保証され、負けた参加者の1人と賞金を分配するルール」かを選択した。
その結果、賞金を分け合うという選択肢が与えられた場合、対戦型の選択肢を選んだ女性の数は約2倍となった。
約60%の女性がこの選択肢を選んだのに対し、勝者総取りのトーナメントを選んだのは約35%だったのだ。
浮かび上がるいくつかの説
リグドン氏らは賞金を分け合える場合に女性が競技に参加したくなる理由についていくつかの説を考えている。
例えば、女性の参加者は、賞金を他の参加者に分配する方法をコントロールしたいと考えている、というもの。あるいは競争に負けた人との間の悪い感情を和らげようとする傾向があるのではないか、といったものだ。
これについて、女性を競争に駆り立てる社会的インセンティブとは何なのか、ということを考えなければならず、私たちは、生物学的・文化的制約の違いによるコストと利益の違いを認識しているのだと思う、とリグドン氏らは述べている。
女性は、CEOのボーナスがすべてであるような、伝統的なインセンティブベースの企業にはない、社会的要素のあるポジションに魅力を感じるかもしない。
この研究結果が全てではなく、仮説ができただけで、まだ社会は男女格差問題を抱えている。今後の更なる研究で少しでも格差がうまる事を願うばかりだ。