かつての世界大戦で様々な国と国が衝突し、ある国は侵略を進め、略奪、破壊し、ある国は支配、虐殺された。
第二次世界大戦で渦中にあったナチス・ドイツが侵攻した国の一つにバルト海に面するリトアニア、ラトビア、エストニアのいわゆる「バルト三国」の1つであるリトアニアがある。
バルト三国は第一次世界大戦でロシア帝国から独立、ソ連及び3国と隣接するドイツの両国と不可侵条約を締結するなどして国防を計ったが、やがてソ連に全土を支配された。
第二次世界大戦にはナチス・ドイツが侵攻を開始、ソ連から解放されると喜んだものの、独立は認められずユダヤ人たちはアウシュビッツに送られた。この時にバルト三国にあったユダヤ教の建築物等も破壊されたと考えられていた。
ユダヤ人を救った杉原千畝
リトアニアには多くのユダヤ人が暮らしていた。特に首都の有ったヴィリナには6万人ものユダヤ人がいて「北のエルサレム」と呼ばれたほど彼らのイディッシュ文化(東欧ユダヤ文化:Wikipedia)が栄えた都市だ。
こうした経緯もあってユダヤ人を弾圧するナチスの標的になり、多くのユダヤ人が虐殺、或いはアウシュビッツに送られ、「北のエルサレム」にあったユダヤ文化も破壊された。虐殺されたリトアニアのユダヤ人は首都以外も含め20万人ほどだと言う。
この弾圧から逃れようとしたユダヤ人を助けたのが当時の日本領事館に配属されていた杉原千畝だ。
彼は迫害から逃れようとしたリトアニアのユダヤ人に特別にビザを発行し、結果的にアメリカへ逃れる活路を作った。
破壊されたと思われていたユダヤ文化が完全出土
このように全て破壊されたと思われていたリトアニアのユダヤ文化の1つであるシナゴーグ(ユダヤ教の「教会」のようなもの)がこの度、かつての「北のエルサレム」の地で2015年に発見、この度完全に発掘された。
更に、箱舟とベーマ(祈りのための高台)の跡、そしてトーラー(Wikipedia)を読むときに使われた銀製の「ヤド」と呼ばれるポインターも発見。
そして、箱舟の前には、これまで記録されていなかった太陽の模様をした「テラゾ(人工大理石:Wikipedia)」の床が発見、更に印象的な一対の階段が発見されている。
「階段」になぜ着目されているのか
今回の発見は特にこの「階段」が大きな発見となった。なぜ階段に着目されているのだろうか。
それは、ナチスに焼かれ、ソ連に破壊され、貴重な記録の一つである当時の写真に写っているシナゴーグの印象的な階段と一致したからだ。
つまり、この階段が、この出土した遺跡がかつて完全に破壊されたと思われていた「北のエルサレム」の大シナゴーグである証拠と言える。
貴重なイディッシュ建築
前述通り、もともと多くは無かった東欧のユダヤ文化であるイディッシュ文化は建築物も含め、多くが失われているため、今回のシナゴーグ発掘は非常に貴重な発見だ。
また、本遺跡では2015年より発掘開始され2019年に出土した1796年の物と思われる貴重なヘブライ語の石碑も発掘されている。
これにはリトアニアからエレツ・イスラエルに移住し、ティベリアに定住した母のサラと父のチャイムを記念して、ラビ・エリエゼルとラビ・シュムールの2人の兄弟が寄贈した旨が刻まれており、当時のユダヤ人を知る手がかりの一つになりそうだ。
参考文献
Remains of Great Synagogue of Vilna which was destroyed by the Nazis and Soviets are unearthed in what was once known as the ‘Jerusalem’ of Lithuania
For the first time since the Holocaust and Soviet destruction, the remains of the Aron Kodesh (Torah Ark) and the Bimah of the Great Synagogue of Vilna were fully exposed