睡眠は人間に限らず生きる上でとても重要なものだ、というのは周知の事実だ。
しかし、逆に寝ている間はとても無防備だ。寝込みを襲う、といった言葉もあるように、睡眠が生存の危機にさえなる。野生動物なら尚更だろう。
そんな睡眠の重要性を知る新たな事実が筑波大学の林教授の研究で明らかになった。
レム睡眠とノンレム睡眠
睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠がある、というのは誰でも1度は耳にしたり目で見たことがあるだろう。
例えば夢を見る、という状態に関してはまだまだ研究が必要な分野だが、少なくともレム睡眠フェーズに見るという事は判明している。
そして、ノンレム睡眠フェーズが身体の回復に寄与することが今までの研究で示唆されてきたが、レム睡眠フェーズの脳や体の回復への寄与は謎だった。
このレム睡眠が脳や身体に与える影響を今回の研究で一部明らかになったという。
レム睡眠の間に毛細血管に大きな変化が
林教授はレム睡眠フェーズにおける脳や身体の回復への寄与の有無を調べるべく、調査を開始した。
二光子顕微鏡を用いて、マウスの脳内の微小環境を直接観察できる技術を確立、睡眠中且つ無麻酔のマウスの脳における毛細血管中の赤血球の流れを観察。
その結果、覚醒状態及びノンレム睡眠フェーズの変化は無かったが、レム睡眠フェーズにのみ、大脳皮質の毛細血管への赤血球の流入量が大幅に増加していることが確認されたのだ。
レム睡眠フェーズに大脳皮質で物質交換が行われ、脳がリフレッシュされている可能性が高い。
更に、アデノシンA2a受容体(コーヒーなど、カフェイン入りの飲料を飲むと目覚めがよくなる受容体)が遺伝的に欠損したマウスで同様の実験を行った結果、レム睡眠中の血流増加が殆ど見られなかった事も確認された。
アデノシンA2a受容体が、レム睡眠中の脳内の血流の変化に少なくとも一部は関与している可能性が高いと言える。
アルツハイマー病の治療に貢献する可能性
レム睡眠の割合が少ない場合、アルツハイマー病のリスクが高まる事が分かっている。
今回の研究結果はレム睡眠のメカニズムを解明する事でアルツハイマー病の治療に貢献できる可能性を示唆している。
脳内の血流低下やレム睡眠の減少が、脳内に老廃物が蓄積するアルツハイマー病の発症と相関していることを考えると、レム睡眠中の脳毛細血管の血流増加が脳内の老廃物除去に貢献している事が非常に重要と言えるだろう。