我々人類は生まれた時から社会の中にいる。それゆえにあまり実感がわかないかもしれないが、人間が暮らす街はいわゆる「群れ」だ。
生物には群れを成す者とそうで無い者がいる。生物それぞれの生存戦略であり、メリットとデメリットがある。
群れを作れば狩りなども効率よく行う事が出来るし、逆に狩られる確率も下がる。だが、食料コストは個体数に応じて増すし、天敵に見つかりやすくなる。
群れを作るには社会性が必要だ。群れの中で弱者(子供)を捕食しない、協力して食料を探す、天敵から警戒するなど、群れで生きる以上、最低限求められる社会性がある。
ムスサウルスのコロニーを発見
マサチューセッツ工科大学の古生物学者のチームは、アルゼンチンのパタゴニアにあるラグナ・コロラダ層でムスサウルスの100個以上の卵が胚を含んだ状態で発見した。これはムスサウルスが世界で初めて群れで行動していたという証拠となる。
これらの化石は1億9300万年前のもので、これまでに推定されていた、恐竜の群れの行動が始まった時期よりも約4000万年早いものだ。この調査結果は「ScientificReports」誌にて報告されている。
卵の他に、80匹の幼体と成体の化石も見つかった。卵は1つのエリアに、幼体はその近くに、成体は全体的に散らばっており、社会構造の典型的な例といえる。
ムスサウルスはコロニーを形成し、巣穴を共有して卵を管理していた。幼体は「学校」に集まり、成体は群れの為に周囲を警戒したり採餌したりしていたと推測される。
保存状態の良い卵をX線で処理
卵はニワトリの卵ほどの大きさだった。X線画像処理を用いて、卵を割らずに中身を調べることができ、その結果、卵の中から非常に保存状態の良い胚が見つかったため、ムスサウルスであると判明した。
ムスサウルスは、体長6m、体重1t以上で、ジュラ紀初期に生息、竜脚類に属しており、ブロントサウルスやディプロドクスなどの巨大な竜脚類の前身的存在だ。
研究の共著者であるラメザニ博士は「コロニーを作る事でムスサウルスや他の竜脚形亜目が進化的に有利になった可能性がある」と考えている。
恐竜は初期から群れを作っていた可能性
今回の発見で1億9300万年前には群れを作っていたことがわかった。これは今まで見つかった「恐竜の群れ」の最古の証拠だが、古生物学的にはもっと前に群れを作る事を学んでいた可能性があるという。
こういった恐竜のコロニーは南アフリカのマッソスポンディルスや中国のルーフェンゴサウルスなどの初期の恐竜も群れで生活していたと考えられている。
恐竜の祖先の誕生は2億5000万年前、我々の知る「恐竜」の姿として存在していたのは2憶3000万年前だたりと言われている為、恐竜は初期のころから集団で生活する事に価値を見出していた事になる。
群れを作るのは何も草食動物に限らない。例えば海の生態系で頂点に君臨するサメも群れで狩りをする事があるし、絶滅時まで生息していたティラノサウルスでさえ最近は群れで行動していたことが分かっている。
群れを作る事でデメリットをはるかに大きく上回るメリットが得られるゆえに、生物たちは本能的な生存戦略から群れに必要な社会性を身に着けていったのかもしれない。