真空管の役割を果たし、現代社会の生活必需品である様々な電化製品の性能や小型化に貢献したトランジスタが開発されたのが1948年。
W.ショックレー、J.バーディ-ン、W.ブラッテンの3人の物理学者はノーベル賞を受賞した。今の電子機器の普及を見ればノーベル賞は納得の結果と言える。
それから70年ほど経った今、技術は更に飛躍的に進歩した。そして、同時に欠点も見えてきた。例えば今も主流の電子コンピューター。電流は熱を生む。処理速度が向上すると、要求される電力量が増えてしまい、熱が発生してハードウェアに決定的なダメージを与えてしまう。
電子である事の限界
電子機器である以上、電流を使う。電流は熱を発生させる。技術が向上するにつれ、発生する熱の対応が必須となっている。
特にコンピューターは計算速度が求められる。もはや電子では難しい領域まで達している。しかし光子なら話は別だ。光子は実質上、電子と比べて量が少なくてすむ為、圧倒的な速さで処理を行うことが可能な、よりパワフルな処理システムの開発が可能となる。
現代の電子コンピュータの基本的な構成要素はトランジスタだ。よって電子部品を光部品に置き換えるためには、「光トランジスタ」が必要だった。
その光トランジスタがこの度、Skoltech社とIBM社によって開発された。
待ち望まれた「光トランジスタ」
Skoltech社とIBM社が率いる国際研究チームは、電子ではなく光子を操作する新世代コンピューターにおいて、極めてエネルギー効率の高い光スイッチを開発した。
このスイッチは、光子コンピュータにおいて、1秒間に1兆回の演算を行う事が可能で、現在の最高水準の商業用トランジスタの100倍から1000倍の速度を誇る。
この研究は、2021年9月22日に『Nature』誌に掲載された。
研究チームのアントン・ザセダテレフ博士やパブロス・ラグダキス教授は次のように語っている。
「この新しいデバイスがエネルギー効率に優れているのは、スイッチングに数個の光子しか必要としないことです。実際、私たちの研究室では、室温でわずか1個の光子でスイッチングを実現しました。とはいえ、このような原理実証を全光学式コプロセッサに応用するには、まだ少し時間がかかるでしょう。」
開発から実用化へは時間が必要だが、最も重要な部分である「光トランジスタの開発」はクリアした。実用化もそう遠くないだろう。
変わる事で何が起きるのか
電子トランジスタから光トランジスタに変わる事で何が起こるのだろうか。
光子は自然界に存在する最小の光の粒子である為、今のところ消費電力に関してはこれ以上改善の余地は無いだろう。
現代の電子トランジスタの多くは、スイッチングに数十倍のエネルギーを必要とする。単一電子を使って同等の効率を実現しているものは、それよりもずっと遅い。
また、省電力の電子トランジスタは、性能上の問題だけでなく、大型の冷却装置を必要とする傾向がある。そのために更に電力が消費され、運用コストの要因となってしまっている。
光トランジスタに変われば、室温で動作するので、これらの問題を回避することが可能だ。
更に本機はトランジスタ本来の機能に加えて、光信号の形でデバイス間のデータを転送してリンクさせる部品としても機能し、加えて入射したレーザービームの強度を最大23,000倍にまで高める増幅器としても機能する。
電子コンピューターから光子コンピューターに変わる未来は近いとは言えずとも、そう遠くなく実現できるかもしれない。