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言語学習が難しい理由は母国語の維持にあった

成人が新たに外国語を学ぶときに、脳で何が起きてるのかが明らかに

子供の頃は興味無かったけど、大人になって海外旅行をしたり留学に憧れたりして英語やスペイン語、フランス語など外国語を学びたいと思うようになった、という方がいるのではないだろうか。

だが、誰しもが第二言語を話せるようになるわけではない。習い始めても途中で挫折するケースも少なくなく、むしろ多いかもしれない。

なぜ外国語を学ぶのは簡単では無いのだろう。その時、脳では何が起きているのか。

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第二言語習得の難しさは昔からある疑問

被験者の学習中に行われた電気皮質記録からのデータを確認するマット・レナード博士。(写真: Susan Merrell|出典:UCSF)


カリフォルニア大学サンフランシスコ校の神経科学者による、大人になってから第二言語を習得するのがなぜ難しいのかという昔からある疑問に光を当てた研究結果が報告された。

この研究成果は、Proceedings of the National Academy of Sciencesの2021年8月30日号に掲載されているので機会があれば手に取って欲しい。

今回の結果は、新しい事を学ぶときに脳内のニューロン間の新しい結合を増やす能力(神経可塑性)と、すでに学んだことの統合されたネットワークを維持することができる安定性との間のトレードオフを、脳がどのように乗り越えているかを示すものであった。

つまり、日本人なら、日本語を安定したまま維持しつつ、他国の言葉を覚えるには何かを犠牲にしなければならないが、それを脳がどう乗り越えていくかを調査した、というものだ。

新しい言語を学ぶ時、脳内で神経が微調整される

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言語間の競合は慣れるにつれ微調整される

研究チームは、脳表面の電極を用いて高解像度の神経信号を追跡することで、言語野に散在する神経細胞群が、外国語の音に慣れるにつれて微調整されていることを発見した。

「新しい言語を学ぶとき、私たちの脳は、互いに競合するこの2つの力をどうにかして調整しています。外国語の音を初めて聞いてから、それを認識できるようになるまでの間に、脳内で何が変化しているのかを初めて明らかにしました。

この中間段階は、言語学習の重要なステップですが、そのプロセスがダイナミックで個人固有のものであるため、これまで取り組むことが困難でした。今回の研究では、学習の初期段階において、音の区別に関わる脳領域で実際に何が起こっているのかを確認することができました。」

UCSFワイル神経科学研究所のメンバーであるマットレナード博士は、研究結果に関してこのように述べている。

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外国語の音が身近に感じられるようになるまで

新しい言葉を覚えるのは簡単ではないのは世界共通だ


新しい言語の音を学ぶことは、その言語を使えるようになるための最初のステップだ。そこで今回の研究では外国語の音に聞き慣れてくる事で、言語に関連する分散した脳領域の活動がどのように変化するかを調べた。

英語を母国語とする19歳から59歳までの10人のボランティア被験者に北京語の音声を認識してもらった。

このボランティアは、脳の手術を受けたことがあり、発作の原因を特定するために脳に電極を埋め込まれている。本研究では、UCSFてんかんセンターの7名の患者と、アイオワ大学病院・クリニックのてんかんセンターの3名の患者を対象とした。このボランティアは、音声を処理する脳領域の表面に設置された256チャンネルの高密度電極からデータを収集することに同意してくれている。
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不慣れな言語でテスト

北京語は、母音と子音だけでなく、声の高さの微妙なトーンによって言葉の意味が決まる声調言語(Wikipedia)だ。英語のような非声調言語は、このような音を聞き分けるのは不慣れで非常に困難なものとなっている。

数日間にわたり、老若男女さまざまな北京語ネイティブスピーカーが「マ」や「ディ」などの音節を4つの音調で発音している音源を流しながら、ボランティアと個別に対話してもらった。

音を聴くごとに、患者は、音が上がっている、或いは下がっている、或いは上がってから下がっている、それとも横ばいだと思うかを示してもらい、それが正しいかどうかのフィードバックを受けてもらう、という学習方法を取った。

5分から10分のセッションを数回繰り返し、このタスクを約200回行ってもらった。学習時間的には長い方ではない。この短時間で、ボランティアは最初の学習段階を終え、音の分類にある程度慣れてきたという。

一部の人は、たくさんの試験を成功させた後、間違った試験を始め、また成功させるという、学習プロセスの一部であるようなアップダウンを繰り返していた。

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神経の「ツマミ」を微調整する

脳は神経のツマミを微調整して母国語を維持しようとする


研究チームは言語学習者が生成した神経信号を見たとき、驚くべきパターンと、これまで観察されてきたパフォーマンス曲線を説明するパターンを確認した。

他の発表された研究のデータによると、言語に慣れてくると音声皮質全体の活動が増加する可能性が示唆されている。

しかし今回の研究では、ある分野では活動が活発になり、他の分野では減少する事で、慎重なバランスを保っている、という事が新たに判明したのだ。

これらの変化は、脳の領域が特定の音に同調するようになったことと関係がある可能性があると考えられる。研究者たちは以下のように語る。

「ある細胞グループは、下降する音に強く反応し、その反応をどんどん上げていき、そのすぐ隣にある別の細胞グループは、下降する音を聞くとますます反応することがわかりました。まるで、これらの小さな神経細胞の塊が異なる役割を担っているかのようです。

また、どの音でどの脳領域がより活性化するかは、個人差がありました。この音に慣れ親しんでいる間に、それぞれの人の脳には固有のツマミがあって、それが微調整されているような気がします。

ボランティアは、英語や音楽の音程を認識する能力に影響を与えることなく、中国語の音程を学ぶことができました。これらの小さな神経のツマミは、みんなで協力してタスクを正しくこなせるところまで到達するために、互いにコミュニケーションをとっていました。」

つまり、他国の言葉を学んでいる時に、脳は神経の「ツマミ」を微調整しているのではないか、と考えたのだ。

誰かが他の誰か人よりも簡単に音を覚えられるのは、それぞれの脳が、母国語の安定性を維持しつつ、新しい言語を学ぶのに必要な可塑性を引き出すという、独自のバランスをとっているからではないだろうか。

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無意識下による母国語の安定維持


新しい言語を学ぶには、まず聞きなれる事。正しい発音を聞き、その発音を試す、を反復する。すると、その言語(音)に脳が慣れてくる。慣れる事で神経のツマミの微調整が始まる。

新しい言語を学ぶのが難しいのは、母国語の安定を維持しており、神経のツマミを微調整しながらタスクをこなしているから、という事になる。

だから、例えばあなたが英語が難しい、スペイン語は難しい、と感じるのは、脳内で日本語を維持しようとしているからと考えられる。

海外に暮らして日本語環境から離れたり、他国で恋人などが出来て日本語から離れるとよく覚えるようになる、といのは良く聞く話だ。

これは日本語の維持や安定を脳がある程度犠牲にしている、つまり一般的に日本人が日本で他国語を学ぶ環境下にいる場合とはトレードオフが逆転するからなのかもしれない。

初学者の英語教材は音声系が望ましいと言えるだろう

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参考文献

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Amet

旅行が趣味の団塊ジュニア世代。旅先で歴史を学んだり遺跡を見学したりその土地の食べ物を楽しむ事をライフワークにしています。本業はテクノロジー/マーケティング関係で情報収集と分析が専門です。

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