ウソ発見器というのを知っているだろうか。最近はあまり耳にしなくなったが、一昔前はドラマや映画、SFなどでもよく使われていた。
いわゆる「ポリグラフ検査(Wikipedia)」を指すが、フィクション作品などで描写されるように検査結果が決定的な証拠として判決されるわけではないが検査自体は存在する。日本では黙秘権に該当するとしてポリグラフ検査を断る事も可能だ。
嘘を見抜くことが出来れば世界中の裁判はこれほど時間もかからないし、冤罪を防いだりと、裁判における様々な問題が解決する。だが、日本でも他国でもポリグラフ検査の結果は基本的には証拠そのものとして認められない。何故だろうか。
ウソ発見器の歴史
ウソ発見器の歴史に関して、過去にIEEE Spectrumが簡単に解説した記事がるので引用する。
皮膚電気活動、呼吸、心拍などから虚偽を判別するポリグラフは、もともとは心臓のモニタリングを目的とした医療機器だった。最初の発明はジェームズ・マッケンジーによる1906年のもの。
最終的に様々な研究者が改善を重ね、収縮期血圧を測定する血圧バンドを発明し、感情とバイタルサインの関係を探るデバイスで使用した。テストでは高い成功率を誇ったが、そもそもテストの前提に問題があった。
中には成功率100%をうたうものもあらわれた為、研究者たちはかえって懐疑的になった。「ポリグラフが心拍や血圧の高さを示した事が、嘘によるものなのか、それとも尋問そのもののストレスなのか判別できていない」と、成功率を否定した。
現在は技術的にも改良され、fMRIを用いたり、人の声や目の動き、ジェスチャーをAIが解析する「AVATAR」というシステムが開発されるものの、やはり米国でも過去の裁判で「ウソ発見器は科学コミュニティに広く受け入れられていない」という判断が為されており現在でも結果はあくまで判断材料の一つであり、「証拠」になる事は認められていない。
そんな化学コミュニティにあまり受け入れらていないウソ発見器だが、「嘘を見抜ければ様々な問題が解決する」のは事実であり、問題を解決するのが科学の役割でもある故に、ウソ発見器を研究する者は多く、今日も新たなウソ発見器が開発された。
新たなウソ発見器が登場。表情筋で判別!
イスラエルのテルアビブ大学のレヴィ教授やハイネン教授らの研究チームは、筋肉や神経の動きを監視・測定する電極を印刷したシールを用い、嘘をつくときに頬や眉毛の筋肉が無意識に動く者がいることを発見した。
レヴィ教授は以下のように語る。
「多くの研究により、人が嘘をついているかどうかを見分けるのはほとんど不可能であることがわかっています。既存の嘘発見器は信頼性が低く、その結果は法廷で証拠として認められません。なぜなら、誰でも脈拍をコントロールして機械を欺く方法を学ぶことができるからです。そのため、より正確に人を見分けることができる技術が求められています。」
そこでレヴィ教授はコントロールするのが難しい「無意識下による動き」を判断材料としたウソ発見器を検討。
同じくイスラエルのX-trodes社が販売しているセンサーが微妙な筋肉の収縮を測定できる革新的なものである事を知った研究チームは、このセンサーを使って嘘の判別テストを行った結果、成功率が73%という非常に高い数値を示した。
この研究結果の詳細は「Wiley Online Library」誌に掲載されている。
仮説と検証a
レヴィ教授の研究チームは、人が嘘をつくときに顔の筋肉が歪む、という仮説に基づき、多数の被験者を用意し、頬と眉毛に前述したシールを貼り付け、向かい合って座ってもらい、真実と嘘を織り交ぜて会話して貰った。
一人は「line(線)」「tree(木)」という言葉が継続して流れるヘッドフォンを装着し、聞かされた言葉を伝えるが、時に逆の事を言う、つまり嘘を混ぜるルールを課した。対面に座っている人は、自分がいつ嘘をつかれたのかを見極めるという役割だ。あるタイミングでその役を交代する。
予想通り、被験者は相手の嘘を見抜くのに非常に苦労したが、少なくとも統計的な有意性は無かった。一方、顔に装着したシールの電極から送られる電気信号は、73%の確率で嘘を判別できた。
今後の展開
現在、研究者たちは、電極を取り除き、高解像度のカメラ映像を分析するだけで、微妙な筋肉の収縮を検出するAIアルゴリズムを訓練することに取り組んでいいる。
嘘の検出率が十分に向上すれば、警察の取り調べや空港、オンラインでの就職面接などに利用できる可能性があるが人権問題や法改正との兼ね合いもあるので取り扱いには慎重を求められるだろう。
心拍数をコントロールするのと同じように、顔の筋肉をコントロールして、従来の嘘発見器を騙すことができる人が出てくるかどうかにも合わせて注目したいところだ。