我々が暮らす地球は太陽を中心とした太陽系という惑星系で、太陽系は天の川銀河という銀河系に属しており、天の川銀河の中心から2億7千万光年離れた場所にいる。
銀河は1000万程度の星々で成り立つ小さな銀河から、100兆個もの星々を持つ巨大なものまであり、銀河の数は宇宙に2兆あると言われている。
銀河1つ1つにはそれぞれブラックホールが最低では1つは必ずあるとされており、天の川銀河に至っては現在確認されている数は100に満たないものの、1万はあるのではと想定されている。
ブラックホールがどんなものであるかについては、以前記事にした「宇宙で最も恐ろしいのはブラックホールである、その理由。」を参照にして欲しい。
そんなブラックホールの観測中に非常に珍しい現象が確認されたのだという。
ブラックホールが中性子星を「捕食」する様子を初めて検出
米国のレーザー干渉計重力波観測所(LIGO)とイタリアの重力波観測所(Virgo)は、ブラックホールが中性子星を「捕食」する様子を初めて検出した。捕食というと語弊があるが、その様子はまるでパックマンのように食べるように天体衝突し、ブラックホールが中性子星を飲み込んだのだ。
両観測所は中性子星がブラックホールと天体衝突をする際に発生する重力波を一度だけでなく二度も捉えた。この詳細は「The Astrophysical Journal Letters」誌に掲載されている。
研究者たちは、今回の観測結果が、物質の構成要素や空間と時間の仕組みなど、宇宙の最も複雑な謎を解き明かすのに役立つだろうと述べている。
中性子星とは
ブラックホールに飲み込まれた中性子星とはいったいなんであろうか。中性子星とは一言で言えば超高密度な天体の事だ。質量の大きな恒星が進化した最晩年の天体の一種である。
恒星は内側に落ちていく自分自身の重力と核融合によって外側に膨張していこうとする力が釣り合う事で星として成り立っている。
恒星の寿命が近づくにつれ核融合が弱くなり、重力によって圧縮され小さくなる。これが中性子星だ。中性子星はその性質から直径20km程度と非常に小さいサイズながら地球の数万倍もの質量を持っているものもある。
この場合、例えば中性子星を1㎤クリ取れたとして、その重さは数億トンにもなるだろう。
中性子星として存在できるには限界があり(トルマン・オッペンハイマー・ヴォルコフ限界)この限界を超えるとブラックホールとなって周囲の全てを飲み込む存在となる。
約10億年前に発生した現象
今回の世界初の検出には、1,000人以上の科学者が関わっており、オーストラリア国立大学をはじめとする多くのオーストラリアの科学者がリードしている。
オーストラリア国立大学物理学研究科の重力天体物理学センターの共同執筆者であるスーザン・スコット特別教授は以下のように語る。
「この現象は約10億年前に発生したが、非常に巨大であったため、現在でもその重力波を観測することができた。それぞれの衝突は、単に2つの巨大で高密度な物体が一緒になっているだけではない。まるでパックマンのように、ブラックホールが相手の中性子星を丸ごと飲み込んでいるのだ。これらは驚くべき現象であり、我々はこの現象を目撃することを長い間待っていた。だからこそ、ついにその姿を捉えることができた事に非常に興奮している。」
観測された2回の衝突のうち、1つは、太陽の9倍の質量を持つブラックホールと、太陽の2倍の質量を持つ中性子星の衝突で、もう一つは太陽の約6倍の質量を持つブラックホールと、その1.5倍の質量を持つ中性子星との衝突だった。
重力波天文学に貢献
重力波は光速で伝わる時空のさざ波だ。1916年にアインシュタインが発表した一般相対性理論から予言されたもので波で、存在は1980年代にハルスとテイラーらにより証明された。
彼らは中性子星連星の軌道を10年以上観測し、その距離が重力波の放出によって徐々に近づいていくことを発見したのだ。この業績が元となり彼らはノーベル物理学賞を受賞した。
それから35年以上過ぎた2015年9月14日,米国の重力波検出器LIGOがブラックホールの合体から発生する重力波の直接検出に成功した。この時から重力波天文学という新たな研究分野の幕開けとなった。
重力波発見のためのARCセンターオブエクセレンス(OzGrav)の主任研究員でもあるスコット教授によると、国際チームはこれまでにも、2つのブラックホールの衝突や、2つの中性子星の天体衝突などを数多く捉えてきたという。
だが、今回はブラックホールと中性子星の天体衝突で更に一度に2回、しかも10日以内に検出という非常に珍しいケースだった。
これからも重力波天文学の研究によって宇宙の構成に関わる様々な事が解明されていくだろう。