2021年11月現在、世界は新型コロナウイルスのパンデミックの最中にある。過去、ペストやスペイン風邪、エイズにコレラなど、人はこれまでの歴史の中は勿論、今現在も感染症の脅威に常に晒されている。
感染症にも多様性があり、細菌性やウイルス性、空気感染や飛沫感染、治るものと治らないものなど多岐にわたる。
感染症に罹ったものは、その特質のせいもあって多くの場合、差別に合う。現在の新型コロナウイルスを見ても、過去に感染症に罹った者が属するコミュニティから排除されるケースが多かったのは想像するにたやすい。例えばハンセン病やエイズやペストなどだ。
無人島でハンセン病患者の頭蓋骨を発見
オレゴン大学の考古学者で自然・文化歴史博物館の研究担当副館長でもあるフィッツパトリック氏が率いる考古学チームはカリブ海の無人島でハンセン病を患った者の頭蓋骨を発見した。
発見されたのはカリブ海に浮かぶ島国であるセントビンセントおよびグレナディーン諸島にのプチ・ムスティーク島だ。(※有人島であるムスティーク島とは異なる)
この発見と研究結果は論文として「International Journal of Paleopathology」誌に掲載されている。
カリブ海の無人島で発掘された頭蓋骨は、非常に珍しいもので、西半球でハンセン病が確認された数少ない例の一つだ。
この頭蓋骨に放射性炭素測定を用いて直接年代を測定した結果、18世紀後半から19世紀前半のものだった事が分かった。
ハンセン氏病とは
ハンセン病とは、らい菌によって手足や顔に著しい醜状を呈し、その変化は骨に現れてしまう感染症だ。1873年にらい菌を発見したノルウェーの医師、アルマウェル・ハンセンに由来する。
かつて日本では「癩(らい)」、「癩病」、「らい病」とも呼ばれていたが、これらの言葉と共に過剰な差別を受けた患者が多くいたため、現在は歴史的な文脈以外での使用は避けられるのが一般的だ。
日本の新規患者数は年間で0〜1人に抑制され、現在では極めて稀な疾病となっているが、2018年の統計では、世界におけるハンセン病の新規患者総数は、年間約21万人と、現在も根絶されていない。
過去のハンセン病の隔離島だった可能性
このプチ・ムスティーク島は過去の記録から1800年代初頭にハンセン病患者を隔離して病気の蔓延を防ぐ為に隔離措置として作られたハンセン病療養所があった場所ではないかと考えられている。
小さく人の住んでいない島がハンセン病患者を隔離する場所として使われていたケースは世界でもよく知られた事実だ。これは「ハンセン病コロニー」と呼ばれている。
有名なコロニーはハワイ・モロカイ島のカラウパパ、トリニダード・トバゴのチャカチャカレ、クレタのスピナロンガ、フィリッピンのクリオンなどである。
ハンセン病コロニーは日本でも多方面で見られた。1889年にテストウィード神父が静岡県御殿場市神山に神山復生病院を設立したのが最初で、その後各地に私立療養所が建てられた。東京・清瀬に現在でもコロニーが国立療養所多磨全生園として残っているのはよく知られている。
日本は国内だけでなく、植民地にもハンセン氏病の隔離コロニーを設立した。1916年には韓国に小鹿島更生園を、1929年にとしていた台湾に楽生療養院を設立。この当時、患者への人権問題に関わる差別があったとして謝罪し、入所者に対して補償金を支払った。
「恐怖は常に無知から生まれる」
「恐怖は常に無知から生まれ(Fear always springs from ignorance.))」というのはアメリカの思想家であるラルフ・ワルド・エマーソン氏の言葉だ。
これは文字通りで、「何だか分からない」ものに人は恐怖を感じる。何が起こるか分からない、つまり自分がそれによって死ぬ可能性もある。
死は人にとって最大の恐怖である事は周知の事実だ。感染症も同じロジックで、「知らないから怖い」と感じ、恐怖を拭う目的で排除、つまり差別する。あるいは真実を知ろうとせず、自分にとって安心できる材料を探し、同意者を増やす目的で誤情報を流布する。
エイズやハンセン病を始め、多くの感染症は感染して病気を患うという性質上、常に差別やデマと共にあった。21世紀を迎えた現代でさえ新型コロナウイルスが原因で多く差別を見ている事だろう。
恐怖は常に無知から生まれる。大事なのは排除してひと時限りの不毛な安心感を得る事ではなく、知識を身につけ、長く継続的に安心感を得る事だろう。