我々の住む地球には、我々を含め様々な物質で成り立っている。小学生の頃に元素記号という者を習っただろう。近代科学の成立以降、原子は「物質を構成する具体的要素」、元素は「性質を包括する抽象的概念」を指すようになった。
原子は英語でAtomだが、元はギリシャ語のἄτομοςであり、「分割できないもの」という意味の言葉だ。その名の通り、原子は最小構成単位である。
物質は基本的に原子の集まりで構成されているが、ではその原子はどのように作られるのだろうか。
ビッグバン
宇宙の始まりはビッグバンと言われている。最近はこれに異を唱え、「ビッグバンは経過であり、過去は永遠に存在する」という説も浮上して話題になった。
確かに一般相対性理論では特異点を説明できないため、ビッグバンが宇宙の始まりであるかどうかはまだ分からないが、現状、ビッグバンが宇宙の始まりであると仮定しよう。
138億年前に起きたビッグバンによって物質がこの世に誕生した。原子には陽子と中性子が必須だ。ビッグバンのあと、宇宙の温度は下がり、素粒子が融合して陽子や中性子を構成した。
宇宙が膨張するにつれ、更に温度が下がり電子の動きが鈍化する事で、陽子にとらわれる。電子1つと陽子1つでようやく原子である水素が誕生した。
120億光年以上離れた銀河からフッ素を検出
英国ハートフォードシャー大学のマキシミリアン・フランコ氏率いる天文学チームは、アルマ望遠鏡を用いて120億光年以上離れた銀河であるNGP-190387のガス雲からフッ素を検出した。
ビッグバンが138億年前と考えられている為、宇宙が誕生してから10数億年後の事となる。
天文学チームによると、ウォルフ・ライエ星(Wikipedia)が元素の1つであるフッ素誕生の星である可能性が高いと言う。
この研究結果は「Nature Astronomy」誌に掲載されている。
身近な存在「フッ素」
フッ素は我々人類にとって非常に身近な存在だ。骨や歯にも含まれるし、歯磨き粉にも用いられ、歯医者等で歯のコーティングにも使われる。また、フライパンにもフッ素加工という加工法が用いられる。
フッ素も他の原資と同様に星の内部で作られるが、これまでフッ素がどのようにして作られるのか、正確にはわかっていなかった。
アルマ望遠鏡で得られたこの新しい発見は、宇宙でフッ素がどのように作られているかを明らかにするものだ。
フッ素誕生がウォルフ・ライエ星である根拠
星は寿命が尽きると、その中心部で形成された元素を排出するため、今回の検出は、フッ素を生み出した星の生死が早かったこと、短命な星の存在を意味している。
フッ素誕生の星の最有力候補であるウォルフ・ライエ星は非常に短命な星で、わずか数100万年しか生きられなかった超大質量星である。
天文学チームが発見したフッ化水素の量を説明するには、既に寿命を終えている短命のウォルフ・ライエ星が必要だという。
他の可能性は?
勿論、これらの星以外にもフッ素の初生成のシナリオが提唱された事があった。例えば漸近巨星分枝星(Wikipedia)と呼ばれる、質量が太陽の数倍もある巨大な進化した星の脈動などだ。
だが、このシナリオの場合、発生まで数十億年かかる可能性もある。NGP-190387は、わずか数千万年から数億年で、135億年前の天の川銀河の星々と同等のフッ素濃度を保有している。
よって、上記シナリオではNGP-190387のフッ素の量を完全には説明できない、というのが天文学チームの出した見解だ。
今後の展開
今後、チリにて建設中であり、10年後の運用開始を目指している超大型望遠鏡(ELT)によるNGP-190387の研究により、この銀河のさらなる秘密が明らかになるかもしれない。
アルマ望遠鏡は冷たい星間ガスやダストから放出される放射線に感度が高い。アルマ望遠鏡は日本が主導し、東アジア、北米、チリやヨーロッパ諸国が協力する国際プロジェクトで建設している電波望遠鏡だ。
ELTを使えば、星の直接光を通してNGP-190387を観測することができ、この銀河の星の含有量に関する重要な情報を得ることが期待されている。