我々の生活は人類の技術の発展と共に生活様式が大きく変わっていく。例えば火を使えるようになって、より効率的にタンパク質や炭水化物を摂取する事が出来るようになったり夜でも活動出来るようになったり野生動物に襲われる機会も減り、個体数を上昇させた。
16世紀にはジェロラモ・カルダーノによって電気が発見された。厳密には紀元前600年前の古代ギリシャ人が琥珀を擦って静電気が起きる事を発見したが当時は磁気だと思われていて、磁気と電気が別物だと発見したのがカルダーノだ。電気の発見から人類の技術は更に飛躍的に向上していく。
そして現在、インターネットが普及し、宇宙にも進出して人工衛星を飛ばし、GPS機能を使ったり天候を予測するなど、高い技術力に依存した生活を送っている。
人工衛星はいつからあるのか
人工衛星はその名の通り、人の手によって作られた地球を周回する衛星だ。地球の重力と地球から逃げようとする衛星のエネルギーとのバランスを計算し、遠心力で地球周回軌道を回り続ける。衛星は第一宇宙速度(理論上、海抜0 mで約7.9 km/s = 28,400 km/h)に加速させる事でバランスをとる事が可能だ。基本的には地球低軌道(LEO)に乗るよう計算されて打ち上げられる。
人工衛星を世界で初めて飛ばしたのは1957年のソビエト連邦が打ち上げたスプートニク1号だ。これは冷戦時代、つまり軍事目的で開発し、打ち上げられたもので、当時ソ連と争っていた米国が打ち上げを失敗した事もあってスプートニク・ショック(Wikipedia)を引き起こした。
人工衛星は軍事目的で打ち上げられたものが最も多いが、知っての通り、我々一般人も大きな恩恵を受けている。中でも人工衛星とインターネットの組み合わせは非常に親和性が高く、リアルタイムで渋滞情報をカーナビに送ったり個人の位置情報を共有する事も出来る。
人工衛星の数はどれくらいあるのか
1950年代までは数はそう多くなかったが、今では渋滞が起きるほどだ。現在はどれくらいの数の衛星が地球を周回しているのだろうか。
マサチューセッツ大学ローウェル校の物理学教授であるチャクラバルティ氏によると2010年代までは年間10〜60機が打ち上げられていたのが、2020年には1,300個以上、2021年には1,400個以上の衛星が新たにLEOに打ち上げられていると話す。
国連のOuter Space Objects Indexによると、2021年9月現在、LEOには合計で約7,500個のアクティブ状態の衛星が存在している。
急増の理由は?
現在稼働中の人工衛星のうち1/3は昨年の2020年と今年の2021年に打ち上げられたもの、という事になる。この異常な急増の理由はなんだろうか。理由は「メガコンステレーション」を置いて他にない。
スペースXを始めとする民間企業が次々に打ち上げており、今後数十年で指数関数的に増加するとみられている。
ただし、国が上げる類の軍事目的の人工衛星とは異なり、民間が打ち上げる人工衛星はより高速なオンラインネットワークの開発や、気候変動の監視など、さまざまなサービスの提供に利用される。つまりビジネス利用だ。
急増の理由は民間だから、というだけではない。コストが大きく下がっているのも大きな理由の一つだ。スペースX、OneWeb、Amazon、StarNetなどの民間企業が現在提案している衛星プログラムは、合計で65,000機だが、更に10万機の提案を予定している企業もあるし、民間企業ではなく国、例えばルワンダも「シナモン」という名の独自メガコンステレーションを発表しており、32万個以上の衛星を搭載可能だという。
人工衛星が増加する事で起きる問題
メガコンステレーションは国や民間企業など宇宙開発に関わる者なら誰でも上げたいと思うもので、前述通り今後も増加するだろう。このような膨大な数の人工衛星を飛ばす事に問題はないのだろうか。
最も懸念されているのはスペースデブリ、つまり宇宙ゴミの増加だ。宇宙は広い、と言っても人工衛星はLEOのみで活動するため、地球の空を少し広げた程度の広さしかなく、ここには既に1億2,800万個のスペースデブリが存在している。
人工衛星が増えれば衝突なども置き、更にデブリは増加する。天文学や星空観測にも支障をきたすだけではなく、例えば2021年6月には、国際宇宙ステーションのロボットアームに穴が開くほどのデブリが衝突したように、人の命にも関わるケースもある。
スペースデブリが何かに衝突すれば更にスペースデブリが増えるという悪循環になる。この増加をいつまでも放置しているとロケットが打ち上げられなくなり、解決の手を失う。
ケスラーシンドローム
この懸念は「ケスラーシンドローム」と呼ばれる。1976年、NASAのドナルド・ケスラーが、今後指数関数的なデブリの数の増加が始まるとしたシミュレーションモデルを提唱した事でこのように呼ばれる。
多くの天文学者が、スペースデブリをコントロールできなければ、人類が多惑星化できなくなるのではないかと危惧している。
すでにいくつかの証拠が、ケスラー症候群の定着を避けるためには、LEOから積極的にデブリを除去する必要があることを示唆しているが、今のところ除去することは論理的に困難であり、合意された除去方法は未だ存在しない。
地球の環境への問題
人工衛星の増加に起因する問題はスペースデブリだけではない。実は宇宙産業の二酸化炭素排出量は、航空産業などの他の産業に比べてはるかに少ない。
だが、前述したように、打ち上げる数があまりに多い。実際、人工衛星の打ち上げの需要が増えるにつれ、ロケット打ち上げによる炭素排出量は毎年5.6%増加している。
環境問題への懸念は打ち上げ時だけではない。人工衛星がやがて軌道から外れて地球の大気圏に再突入する際にも、大気中にアルミニウム等の化学物質が放出される。この事で何が起こるかはまだ不明だが、オゾン層に穴を開けた原因となったエアロゾルからのフロンガスの放出のように、人為的に大気の化学的性質を変化させることは、良い結果をもたらさない傾向にあるのは過去の失敗でも分かりきった事だろう。
また、最近の衛星は大気圏再突入の際に細かく砕けるように設計されて。大半は海に落ちるため、海中にゴミを撒き散らす事になる。人工衛星の数が増えれば当然、海へ放出される宇宙ゴミも増加する。
光害
人工衛星は意外な事に光害をも作り出す。人工衛星に当たる太陽光が反射し地球に光を向けるのだ。
2021年9月にarXivデータベースに投稿された光害に関する研究では、将来的に夜空に輝く光の8%が人工衛星からのものになる可能性があるという。
これはまだ些細な問題に見えるかもしれないが、昔はスペースデブリもそう思われていた。些細な問題を放置すれば問題は積み重なっていき、将来的には解決が難しい大きな問題になりうる事は人類の数々の失敗が証明している。
人工衛星の存在を否定するのは間違い
では、人工衛星をこれ以上打ち上げてはいけない、即刻排除すべし、というのが正しいかというとそうではない。取るべきは極論ではなくバランスだ。
人工衛星は、既に我々のサプライチェーン、金融取引、気象観測、気候科学、地球規模の通信、捜索救助、数々の個人の私生活サポートなどに大きな役割を果たしている、いわばインフラと言っても過言ではない。
人工衛星を上げつつも、積み重なる問題から目を背けたままプロジェクトの成功だけに固執してはいけない、という考えを民間企業や国など宇宙開発に関わる機関全体で共有する必要があるだろう。