1日の時間は有限であり、睡眠や食事など必須の時間もある。多忙な現代社会にとって1日の時間の割り振りは生活上、非常に重要なタスクかもしれない。
日本においては一昔前から今日までブラック企業、ブラックバイトといった、雇用者が被雇用者の時間を大幅に搾取する構図が社会問題になっている。
既に社会問題と化しており、日本社会での大きな課題として位置づけられている。基本的に多くの日本人は「もっと余暇、自由な時間が必要だ」と思っているだろう。
幸福度を調査
これは日本に限らず、他国でも議論が日々起こっている。欧米はバカンスや就業時間は希望分だけとって生活も充実している、と思われているが、生活上、致し方なく過度に働かざるを得ない等、必ずしもそうでないものも当然ながら存在する。
実際はどうなのだろうか。休めるだけ休めばそれだけ人はより大きな幸福感を得る事が出来るのだろうか。
その事を確かめるため、ペンシルベニア大学ウォートンスクールのマーケティング学科助教授であり、論文の筆頭著者であるマリッサ・シャリフ博士らが検証を行った。
問題は単純ではなかった
結輪から言うと、実際には自由な時間が多すぎても、場合によってはそれがストレスになり得ることが分かった。誤解しないで欲しいのは「少ないのが正解」ではない、という事だ。
シャリフ博士は「1日の中で自由に使える時間が少ないと、ストレスが大きくなり、主観的幸福度が低下することがわかった」と述べている。この検証による論文はJournal of Personality and Social Psychologyにも掲載されている。
つまり、余暇が少なくてストレスになっている者に、ただいたずらに余暇を与えれば解決する訳でもない、という事だ。問題はそう単純ではない。
検証内容と結果
シャリフ博士らは2012年から2013年にかけて米国時間使用調査に参加した21,736人のデータを分析した。
参加者は、24時間前に何をしていたか(各活動の時間帯と持続時間)を詳細に記録し、幸福感を報告。
その結果、自由時間の増加に伴い、幸福感も増加しましたが、2時間程度で横ばいとなり、5時間を過ぎると減少し始めたのだ。
そこで、更に時期をさかのぼり、1992年から2008年にかけて実施された「変化する労働力に関する全米調査」に参加した13,639人のアメリカ人労働者のデータを分析。
この調査では、参加者に自由時間の量(「仕事の日は、平均してどれくらいの時間を自分の自由時間に費やしてますか?」等)と、生活の満足度を5段階で尋ねている。
このデータでも自由時間の多さが幸福度の高さと有意に関連しているものの、ある一定の範囲までとなっており、同じ結果となった。
更なる調査・その1
この現象をさらに詳しく調べるため、研究チームは6,000人以上の参加者を対象に、2つのオンライン実験を行った。
1つ目の実験では、参加者に少なくとも6カ月間、毎日一定量の自由な時間を持つことを想像してもらう、というものだ。
参加者は、自由時間が少ない(1日15分)、中程度(1日3.5時間)、多い(1日7時間)に無作為に割り当てられ、どの程度の楽しさ、幸せ、満足感を感じるかを報告してもらった。
結果、自由時間が少ないグループと多いグループの参加者は、中程度のグループに比べて幸福度が低いと回答した。
自由時間が少ない人は、適度な量の人に比べてストレスを感じやすく、幸福度の低下に繋がったが、自由時間が多い人も、適度な量の人に比べて生産性が低いと感じ、同じく幸福度の低下に繋がったのだ。
更なる調査・その2
2つ目の実験では、生産性がどのような役割を果たすかを調べた。参加者には、1日の自由時間が中程度(3.5時間)か多い(7時間)かを想像してもらい、さらに、その時間を生産的な活動か非生産的な活動に費やすことを想像してもらった。
その結果、自由時間の多い参加者は、非生産的な活動をしているときの幸福感が低いことが分かった。一般的に生産的な活動は運動や趣味など、非生産的な活動はテレビやパソコンと言われるが、何が生産的で何が非生産的かは個人によって分かれるだろう。
しかし、生産的な活動を行っているときには、自由時間の多い参加者は、適度な自由時間のある参加者と同様の幸福度があったのだ。
問題点は「自由時間が少なすぎる」だけではない
つまり、時間だけあっても、その時間を有意義に過ごせなければかえってストレスになる、という事だ。薄々と感じていた者も多いと思うが、データとして出されるとより実感するのではないだろうか。
充実していなければ時間がいくらあっても幸福度は上がらず、充実していない時間が多ければ、それがかえってストレスになっている。
では、充実した日を送るにはどうすればいいのだろうか。自由な時間の多さは勿論、大前提であり、且つその自由な時間を有意義に過ごせる環境が必要なのだ。
日本で言えば、休んでも罪悪感を感じさせない、自由時間を有意義に過ごせるほどの余裕のある資金、共に有意義な時間を過ごせる仲間やパートナーの存在、自分にとっても娯楽や趣味を十分に楽しめる環境などの存在があって初めて人は幸福度を上げる事が出来る。
QOL向上には十分な余暇は当然必要だ。そしてさらに、その時間を充実させる金銭や周囲の環境も必要なのだ。