ミイラといえばどの国を思い浮かべるだろうか。恐らく大半はエジプトと答えるだろう。だが、ミイラは意図的に作られたものや偶然ミイラになったものも含め、世界各地で確認されている。
例えば南米では各所でミイラが発見されており、世界最古のミイラも南米にある。チンチョーロ文化などはミイラ化文化があった。宗教的思想に加えて世界でもっとも乾燥している地域である点もミイラ化文化を後押ししたのかもしれない。
また、ヨーロッパでは炭湿地から非常に保存状態のよいミイラが何度か見つかっている。これは偶然的なものだろう。更に日本などアジア諸国では即身仏という文化があったり、オセアニアのパプアニューギニアに暮らすアンガ族などは21世紀の今でもミイラ化文化を残している。
このように世界各地でミイラは発見されているが、それでもやはり宗教的にも、国家的にもミイラに携わってきた古代エジプトのミイラの文化的価値や技術は群を抜いて高い。
エジプトで最古のミイラを発見
2019年に、4400年前の古代エジプトの高官「クウィー(Khuwy)」の墓が発見された。保存状態も非常によく、色鮮やかな壁画やミイラが話題となったのは記憶に新しい。
カイロ南に位置する古代の埋葬地サッカラで新たに発見されたものだ。クウィーは、エジプト第5王朝(紀元前2500~紀元前2300年)の王に使えていた高官で、王族の親族であった可能性もあると言う。
Minister of Antiquities with 52 foreign ambassadors, cultural attachés, & well-known Egyptian actress Yosra, to inspect a newly discovered tomb of a dignitary from the reign of king Djedkare. #egypt #archaeology #media #news #saqqara #necropolis #ancientegypt #egyptology pic.twitter.com/tvWamPwFTW
— Ministry of Tourism and Antiquities (@TourismandAntiq) 2019年4月13日
この発見された墓のクウィーのミイラを詳しく調査したところ、驚くべき発見があった。
クウィーに施された保存処理は死後1000年後だった
これまでの古王国時代のミイラの研究では、ミイラ化プロセスは基本的には体内の水分を浸出させるだけで、内臓はほとんど取り出さず、脳も取り出さないという初歩的なものが主流であり、ミイラ化の失敗も見られた。
この時代は死者の内部よりも外観を重視していた。しかし調査の結果、クウィーのミイラの保存方法は、基本的な処理に加えて高品質の樹脂で覆われた上質なリネンが使われてた事が判明。
これまでに記録されている古王国時代のミイラは、樹脂の使用ははるかに限られていたが、このクウィーのミイラは、樹脂や織物であふれていて、ミイラ化の印象がまったく違った。むしろ1,000年後のミイラに近い。更に墓には防腐処理された遺体の内臓を入れるための壺(カノプス壺)を含む様々な土器が並んでいた。
つまり、今まで見つかっていた古いミイラは基本的な処理しか出来なかったのではなく、あえて基本的な処理のみにされていたに過ぎず、実際は高い防腐技術を1000年前から知っていた、という事だ。想定よりはるか昔から、高い防腐技術を持っていたことになる。
古代エジプトの歴史の本の改訂が必要
カイロ・アメリカン大学のサリマ・イクラム教授は取材したガーディアン紙に以下のように語っている。
「このミイラに使用された素材や起源、そしてこれらの貿易ルートは、古王国時代のエジプトについての今までの理解に大きな影響を与えるだろう。ミイラ化技術の進化に関する我々の理解を完全に覆すことになる。ミイラ化と古王国時代の歴史に関するすべての本を改訂する必要があるだろう。」
この詳細は11月7日から放送されるナショナルジオグラフィックのドキュメンタリー番組「Lost Treasures of Egypt」の中で紹介される予定だ。