生命体の神秘を感じる無脊椎動物のカリスマ的存在、クマムシ。その驚異的な生命力にいつも我々は驚かされてきた。
クマムシは、、熱帯から極地方、超深海底から高山、温泉の中まで、世界のすべての大陸、海洋、淡水、陸地など、ありとあらゆる環境に生息しており、宇宙空間の真空状態と有害な電離放射線にさらされながらも、地球に戻ってきた後も生存し、繁殖することができた。
体重の85%をしめる水分を3%以下まで減らし、極度の乾燥状態にも耐え、100°Cの高温から、絶対零度に近い極低温までも耐え、真空から7万5000気圧の高圧まで耐え、高線量の紫外線、X線、ガンマ線等の放射線にも耐えた。
クマムシの寿命は半年と、強力な耐性能力の割に短命だが、120年前に乾燥して活動を止めていた(乾眠)個体が水を与えられたら蘇生したという記録もあるように、常に長寿や耐性を追求してきた我々人類の探求心を惹きつけて止まない存在だ。
新種のクマムシを発見
クマムシは現在確認されているだけで1000種ほどだが、これらに属さない新種のクマムシをドミニカ共和国で見つかった1600万年前の琥珀の中で化石化した状態で発見された。
この発見は、学術誌『Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences』に掲載されている。
Paradoryphoribius chronocaribbeusと名付けられたこの新種のクマムシの化石は中新世のもので、保存状態が非常に良かったため、新種である事が確認できたという。
北フロリダ大学の進化発生生物学者で助教授のフランク・スミス氏(今回の研究には参加していない)は、「化石から見つかった新種のクマムシは2種類しかない。3種類目のクマムシが見つかったことに非常に興奮している。」と語った。
0.6mmに満たないクマムシの化石をどのように発見したのか
発見されたクマムシの体長は0.6mmにも満たない。肉眼で琥珀の中から見つけるのは難しいだろう。研究者たちはどうやって見つけたのか?
進化生物学者のフィリップ・バーデンが率いるニュージャージー工科大学のチームは、アリやシロアリなどの社会性昆虫の進化を研究しており、当初は琥珀に捕らえられたアリを探すために琥珀を入手した。
この研究チームはは何ヶ月も前から琥珀を保持していたが、研究テーマであるアリのみにフォーカスしていた。しかし、ある研究員が、クマムシによく似た個体に気がつき発見に至った。
更に、この化石化したクマムシが琥珀の表面にかなり近い位置にいたため、顕微鏡の光がサンプルに届きやすかった等、複数の偶然の重なりが発見に繋がった。「運が良かった」と彼らは語っている。
新種認定の経緯
幸いなことに、クマムシのクチクラ(髪の毛でよく使われる「キューティクル」と同等)は、真菌類の細胞壁や節足動物の外骨格の主成分である繊維状のグルコース物質であるキチン(Wikipedia)でできている。
キチンは蛍光性があり、レーザーで容易に励起されるため、透過光ではなく、共焦点レーザー顕微鏡を使って観察することで、蛍光の度合いが変化し、内部の形態がより鮮明に見えるようになる。
この方法により、この化石の非常に重要な2つの特徴、すなわち、爪と頬側装置(動物の前腸であり、同じくクチクラでできている)を完全に可視化することができた。
完全に可視化された化石のクマムシを観察すると、クマムシの仲間とは異なっていた。2~3本の太いマクロプラコイドを持っているのに対し、今回のクマムシの化石は、隆起した1本の細いマクロプラコイドしか持っていなかったのだ。
現存するどの属にも当てはまらないこの化石化したクマムシは新しく作られた属と種に認定され、新種として位置づけられた。
前述したとおり、今回は非常に運が良かった。クマムシの化石はその小ささの為、殆ど見つかる事は無い。だが、今回の件もあるため、琥珀の調査は今後慎重に行う事で新しい発見に繋がるかもしれない。