犬は古来から人類と密接な関係にあり、異なる種族のパートナーとして長きにわたり共存してきた。
時として狩猟を助けるサポート役として、時として人に寄り添うペットとして、犬と人とはもはや切っても切れない関係と言っても過言ではないだろう。
アメリカの心理学者ハリー・ジェイソン氏による動物の知性を試すデータでは、犬の知性はカラスとほぼ同等で、特に人を理解する能力に長けていると考えられていたが、その能力を裏付ける可能性の一つが示された。
犬は人の意図的/非意図的な行動を認識できるか
ハーバード大学の研究者は犬に、人間の意図的な行動と意図しない行動とを見分ける認知能力を示した実験結果をScientific Reportsで発表した。
犬が人間と接するとき、人間の意図的な行動に対して適切な反応を示すことが多い。しかし、犬が単に行動の結果に反応しているのか、それとも行動の意図を識別できているのかは不明だった。
犬は、行動結果が同じであっても、人間の意図的な行動と意図的でない行動を認識し区別することができるのだろうか?という疑問の元、行動カテゴリーを識別する能力をテストした。
3つの条件下でテスト
テストには鳥類や霊長類、幼い子供を対象に行われてきた「意図を読み取る能力を測定するテスト」を改良した「不本意vs.不可能」パラダイムを採用を適応、人間の意図的な行動と意図的でない行動に対する反応を比較する。
雌27匹、雄24匹の、警察犬や登録救助犬といった特別な訓練を受けていない計51匹の犬と、飼い主ではない女性被験者の2名を用意し、ガラスの仕切り壁によって人と犬を分け、餌が通るほどの隙間をあけた上で以下の条件下でテストを行った。
- 人が犬に食べ物を与えようとしたが、気が変わってわざと目の前に置いた。
- 人が犬に食べ物を与えようとしたが、「たまたま」落としてしまった。
- 人が犬に食べ物を与えようとしたが、隙間が塞がれた為、餌をあげられなかった。
これら3つの条件を設定して、51匹の犬に耐えてもらう。
尚、この実験には飼い主を持つペットの犬のみに限定、飼い主には同意をしてもらっており、事前に水や食べ物に対して「おあずけ」はしていない。
また、ゲッティンゲン大学の動物福祉団体によって承認されており、方法は関連するガイドラインに準拠、ドイツの法的要件も遵守されている。
犬たちの行動に見られた結果
結果的に、犬たちの反応は条件によって明らかに異なっていた。
気が変わったふりをしたケース(条件-1)では、「誤って」落としたケース(条件-2)や、与えられなかった(条件-3)ケースに比べて、仕切り壁に近づくのに時間がかかった。
対して、他の2つの条件(条件-2と3)では、尻尾の動きが活発になり、犬はより速く壁に近づいた。この2つの条件には「食べ物を与えるつもりだった」という意図が含まれている。
犬は、人の行動が意図的か、意図的でないかによって、明らかに異なる行動をとったのだ。
この結果は答えではない点に注意
この結果はあくまで、意図的な行動と非意図的な行動を区別することができる「可能性がある」レベルに留まる。
なぜなら、ハーバード大学の研究員であるシュネマン氏が言うように他の要因で説明できる可能性はるし、非言語的な会話のみでは、何が測定されているのかを確実に知るのは非常に難しい、つまりエビデンスを得るのが困難だからだ。
とはいえ、犬の認知能力の片鱗がつかめた点はとても大きな成果と言えるだろう。今後の更なる別の行動実験を望むとともに、他の研究者への刺激になる事を期待したい。