ニホンオオカミは115年前に絶滅したとされている。過去50年にわたり生存が確認されない場合、絶滅扱いとなる為、ニホンオオカミは絶滅したとなっている。
1905年の狩猟を最後に目撃情報は無くなったため、これをもって絶滅したというのが今のところの定説となっている。
現在生存する犬は約2万年から4万年前に野生のハイイロオオカミから分離しているが、現存するオオカミの中には、いわゆるペット化された犬と遺伝的に近い種がない。
だが、驚く事にニホンオオカミが、犬に最も遺伝的に近い野生のオオカミ種である事が研究により判明した。
起源が不明
現在のすべての犬は、ハイイロオオカミの単一集団の子孫であると考えられてる。しかし、そのハイイロオオカミがいつ、どこに生息していたかについては、長い間、議論の的となってきた。
その理由のひとつとして、犬という種は存続しているものの、元々の集団が消滅してしまったために、犬の起源に関する遺伝的な手がかりが失われてしまったことにある。
そこで登場したのがニホンオオカミ(Canis lupus hodophilax)である。日本の動物学史上最大の謎の1つとも言われているこの動物の起源は不明であり、どのような経路で日本にやってきたのかも不明だ。
今年初めに発表されたニホンオオカミ1頭の遺骨の遺伝子解析では、長い間絶滅したと考えられていたシベリアオオカミの系統に近いことが判明した。また、最近では、犬がシベリアで生まれた可能性も指摘されている。
ニホンオオカミとイヌの共通点は、地理的なことだけではないのかもしれない。
オオカミの剥製から遺伝子を採取
そこで、葉山にある総合研究大学院大学の研究ーチームはニホンオオカミ(学名:Canis lupus hodophilax)の剥製や頭蓋骨等からニホンノオカミの遺伝子を採取。
この遺伝子のゲノムを解析し、現代のオオカミ種、柴犬など日本のイヌ種、キツネやその他のイヌ科の動物たちと比較した。その結果、ニホンオオカミは2万年前から4万年前の進化の分岐点で生まれたことを発見した。
ニホンオオカミとハイイロオオカミは、東アジアのどこかに生息していたと思われるハイイロオオカミを祖先とする単一の種から生まれたと考えられる。
その子孫の中にはニホンオオカミに進化したものもあれば、犬に進化したものもあった。これにより、犬はヨーロッパや中東ではなく、東アジアで最初に進化したという説に信憑性が出てきた。
この研究は、犬がヨーロッパや中東ではなく東アジアで誕生したという可能性に、更に証拠を追加するものだ。
犬とニホンオオカミの祖先は同じ?
研究チームは先週、bioRxiv(査読前の生物学論文を管理するサーバー)に、ニホンオオカミが他の種とは異なる独自のグループであることを報告した。
ニホンオオカミは、他のどのオオカミやイヌとも異なるグループなのだと言う。寺井氏らがが進化ツリーを作成したところ、ニホンオオカミの系統を含む枝は、他のどの動物よりもイヌの系統に近いこと判明。
ミュンヘンのルートヴィヒ・マクシミリアン大学の進化遺伝学者であるフランツ氏(非研究チーム員)は、「もし本当なら、これは非常に重要なことだ。犬に近いオオカミ種を見たのは初めてのことだ。」と話す。
寺井らの研究チームは、ディンゴやニューギニア・シンギング・ドッグなどの比較的古いイヌや、現代の日本の犬種を含む東洋系のイヌが、ニホンオオカミとDNAの5%を共有していることを発見した。
一方、ジャーマンシェパードやラブラドール・レトリーバーなどの西洋の犬は、DNAの共有が非常に少ないことがわかった。ニホンオオカミが、東西分裂の後に東へ移動してきた犬と交配したと推測している。
その後、その東側の犬が西側の犬と交配し、西側の犬には日本オオカミの特徴が希薄になっただけだと考えられる。
犬の起源を知る手がかりになるか
オオカミと明確に区別できる最古のイヌの遺体は、約1万5千年前のものだ。犬のペット化のプロセスは、受動的に生じた可能性が高く、世界のどこかにいたオオカミの集団が、狩猟採集民のキャンプの外れに住み、人間が作ったゴミを食べていたとというのが現在の仮説だ。
おとなしくて攻撃性の低いオオカミの一部が、この行動をとったと推測される。人間がこの事で何かしらの利益を得ることはないが、時が経つにつれ、何らかの共生関係を築き、最終的には現在のペット化した犬に進化したのではないだろうか。
1905年に人間による狩猟によって絶滅したニホンオオカミは、犬と非常に近い種であった。人間に一番近い動物である犬の起源は長らく不明だ。
ニホンオオカミが生きてればこの起源を掴めたかもしれないと思うと人の手も加えられての絶滅が悔やまれるが、剥製等が残っていたため、手がかりはつかめるかもしれない。