スマホの登場から10年以上の月日が経ち、電子デバイスは非常に身近な物になった。今では体に身に着けるウェアラブルなデバイスが普及の兆しを見せている。
例えばスマートウォッチやスマートグラスなどは既に一般ユーザーでも手軽に手に入るようになった。
移動通信システムも4Gから5Gへ移り始め、これから更にインターネットや電子機器は身に着けるものが増えてくるだろう。
そんな中、これらのウェアラブルデバイスの普及を更に後押ししそうなデバイスが開発された。これは多くのウェアラブルデバイスの持つという弱点を補う物だ。
自己発電する生体電子デバイス
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)Samueli School of Engineeringのバイオエンジニアチームは柔軟で伸縮性のある自己発電型の生体電子デバイスを開発した。「ウェアラブル発電機」と言えばイメージしやすいかもしれない。
肘の曲げ伸ばしや手首の脈拍など、日常生活レベル程度の人の動きでも電気に変換し、ウェアラブルデバイスやインプラント型の診断センサーなどに電力を供給する事が出来る、というものだ。
防水にもなっており、汗などをかいても支障なく動作する。ウェアラブルデバイス次第だが、わざわざ充電の為に取り外す必要も無くなる可能性もありそうだ。
どのような技術なのか
研究チームは、微小な磁石を機械的な圧力で押し付けたり引き離したりすると、物質がどれだけ磁化されるかが変化する「磁気弾性効果」が、硬いだけでなく、柔らかなシステムにも存在することを発見した。
この概念を証明するために実験を行った。紙のように薄く加工されたシリコン製のマトリックスに、微小な磁石を分散させ、マトリックスがうねるたびに強さが変化する磁場を発生させた。磁界の強さが変化すると、電気が発生する。
この発見及び理論モデル、デモンストレーションの詳細はNature Materials誌にて研究論文が発表されているので詳細は論文で確認して欲しい。
ウェアラブルデバイスの光となるか
UCLA Samueliのバイオエンジニアリング助教授であるチェン氏は以下のように語る。
「今回の発見は、人間の身体を中心とした、ウェアラブルデバイスや、IoTに欠かせないセンシング技術、その他さまざまな治療技術のための新たな道を開くものです。この技術の特徴は、本デバイスを人の肌に押し当てても、快適にストレッチや動きをすることができる、支障なく日常生活を送る事が出来、更に電気ではなく磁気に頼っているため、湿度や汗によって効果を損われるような事がない点にあります。」
この発見は既存のウェアラブルデバイスだけでなく、多岐にわたり応用できる技術になりそうだ。
プロトタイプでテスト
研究チームはプラチナ触媒を用いたシリコンポ製のマトリックスとネオジム(Wikipedia)、鉄、ホウ素ナノマグネットで構成された小型でフレキシブルな磁気弾性発電機(縦横2.4cm程度の大きさ)を製作。
これを被験者の肘にシリコンバンドで固定、硬い金属合金を使用した同サイズの装置と性能を比較した。
その結果、本デバイスは金属製のものに比べて4倍の磁気弾性効果を発揮、更に1cm²あたり4.27mAの電流を発生させることに成功した。これは過去に同様の目的で開発された技術の1万倍に相当する。
ようやく実用的なものに
この磁気弾性発電機は非常に感度が高く、人間の脈拍ですら電気信号に変換できる為、事故発電型の防水心拍計として使用することができるだろう。
また、発電した電気は、汗センサーや体温計など、他のウェアラブル機器の持続的な電源としても利用できる。人体の動きからエネルギーを得てセンサーなどに電力を供給するウェアラブル発電機は、これまでも開発が進められてきたが、実用化には至らなかった。
例えば、プロトタイプで比較に利用した金属合金は曲がらないため、皮膚に押し付けても意味のあるレベルの電力を生成できず、実用化しなかった。また、静電気を利用したデバイスでは、十分なエネルギーが得られないし、湿度の高い場所や汗をかいた状態では、性能が低下してしまう。
カプセル化して水を通さないようにする試みもあったが、やはり効果が半減してしまった。対して、本磁気弾性発電機は人工的な汗に1週間浸しても問題なく動作した。
5Gやウェアラブルデバイスが世間に普及し始めたこのタイミングでの実用的な自己発電型のデバイスの開発は、普及の更なるブースターになる可能性も秘めているだろう。
この技術は研究チームによって特許を申請中だ。