かつての火星に多くの水が存在していたことは、多くの証拠が物語っており、非常に高い確率である事がこれまでの研究でわかっている。
そして、その水がどこへ消えたのかについても、様々な議論やシミュレーションが行われている。
地球にとって、同じ太陽系の惑星で地球同様に水が存在した星で何が起きたのかを知るのは非常に重要だ。
35億年前の火星で起きた事
テキサス大学オースティン校の研究チームは火星にかつて存在した260以上の湖が大量の水で満たされ、決壊して地表に壊滅的ダメージを負わせた大洪水が起きた事を2018年に突き止めた。
この決壊により大量の水が流れ出した。流れ出した水は火星の地表を大きく削り、川を形成、湖と湖を繋いだ。
通常、このプロセスはゆっくり時間をかけられる為、非常に長い期間となるが、この大洪水は非常に短期間で川を形成した事がこの度わかったという。
決壊によって起きた洪水が一気に火星の地表を削る
研究チームは谷に注目した。既存の火星の川の谷のカタログを見直し、クレーターの縁で始まった谷と、別の場所で形成された谷の2つに分類。
クレーターの縁で始まった谷は、湖の決壊による大洪水の際に形成されたもので、別の場所で形成された谷は、時間をかけてより緩やかに形成されたことが分かった。
この大洪水が火星の地表を掘削したと思われる体積を推定した。その結果、湖の氾濫によって、形成された川の谷は、谷の長さ全体の3%しか占めていないにもかかわらず、世界で5番目の面積を誇るアメリカのミシガン湖の10倍以上に相当する約57,000立方キロメートルの体積が掘削された可能性があることがわかった。この量は、谷の総量の少なくとも24%に相当する。
170メートルという川の谷の深さの中央値は、時間をかけて徐々に作られた他の川の谷の深さの中央値の77メートルであるのに比べて2倍以上も大きい。
谷の体積の約4分の1が、数万年から数十万年かけてではなく、数日から数ヶ月、数年という非常に短い期間で急速に大量に削り取られた証拠の1つとなりそうだ。
この現象は地球の更新世(約260万年前から約1万1,700年前までの時代)の終わりに氷河が溶けたときなどにも見られる。大規模な氷河の融解により起きた洪水は、太平洋岸北西部に巨大な峡谷を形成している。
一方、35億年前の月や地球では
火星では35億年前に大洪水が起きていた。火星が活発に活動していた頃だ。では、その頃、月や地球の様子はどうだったのだろうか。
NASAでは35億年前に月では大気に覆われていたと考えられている。今のところは火山活動で大量の水蒸気などが噴き出し、表面を覆ったと考えられている。
一方、地球では何が起きていたのか。35億年前の地球では、生命が誕生し始めていた。
地球上での最古の化石(西オーストラリア・ピルパラ地域からのバクテリアの化石)が見つかり、メタン生成の痕跡(西オーストラリア・ピルパラ地域から、同位体比率異常のメタン)も見つかっている。
パンスペルミア説(Wikipedia)を思い浮かべる者もいるのではないだろうか。地球の生命は地球で誕生したのではなく別の惑星から来た、という仮説だ。
現在のところ、パンスペルミア説も含めて生命の起源に確たる証拠はない。だが、太陽系の中で隣接する火星と月と地球。35億年前のそれぞれの状況にはロマンを感じずにはいられない。
いずれにしても、火星で過去に起きた水の動きを知る事で、今の火星の状況を知るヒントに繋がるかもしれない。火星を学べば今後、或いは過去の地球の様子を知る事にも繋がる可能性があるだろう。