我々の生活に欠かせないガラス。歴史は非常に長く、紀元前4000年より更に前の古代メソポタミアで作られたガラスビーズが起源とされている。
それから6000年経った現在、ガラスの製法は進化し続け、生活必需品となり、今に至る。
歴史の長いガラスは、その用途に合わせて多方面に開発されている。今回、新たに開発された新素材のガラスも高い需要があって開発に至ったものだ。
様々なガラス
基本的にガラスのデメリットとして「割れる」という点がある。そして、その先に「怪我」があるだろう。地震が多発する国に暮らす日本人なら誰もがガラスは時として怖いものであると知っている。
歴史の長いガラスは様々な目的で作られる。基本的に多くは割れにくいガラスを求められるが、例えば車に使うガラスは割れにくいながらも、方法次第で割れやすい必要がある。閉じ込められる可能性もあるからだ。だが、知っての通り、生活必需品でありながら凶器にもなる。やはり「割れないガラス」は必要だろう。
日本の多くの高層ビルには割れない前提で倍強度ガラスが採用されている。例えば旭硝子のHSライトなどもその一つだ。
だが、そんな「割れない」とされていた倍強度ガラスも、割れる事故が起きてしまった。
ガラスは我々の身を守ってくれていながら、時として凶器にもなるもの。
実際、世界でもガラスによる死者も後を絶たない。故に、より安全で安心なガラスの開発が今も続けられている。
割れないガラスはあるものの、実用化には遠く
割れないガラスというのは今も様々なメーカーが開発に勤しんでいる。例えば上の動画にある2008年に話題になった超強化ガラス「SR 5096」もその一つだ。
ハンマーで叩いてもドリルを使っても何度叩いてもひびは入るが砕けない。「割れない」ガラスだ。
ガラスを強化するには、焼き戻しや合わせガラスなどの技術があるが、コストがかかる為、開発されてもなかなか普及しない。
開発できても一般人の手に届く、或いは身近になるには、ある程度安価で作れて且つ量産できる必要がある。
新素材のガラス複合材
そんな夢のようなガラスになりえる新素材が、カナダ、ケベックにあるマギル大学の研究チームによって開発、論文が発表された。
プラスチックのような弾力性を持ったガラス複合材で、通常のガラスの3倍の強度に加え、5倍以上の耐破壊性を持つ上に、コストもかからず量産も可能だ。
将来的にはスマホやタブレットなどのガラスモニターの改良などに利用できる可能性があるという。
貝殻をヒントに
ヒントとなったのは貝殻だった。目を付けたのは真珠層(Wikipedia)と呼ばれる貝殻の内側に付いている、無機質と有機質の複合物質だ。真珠の外側のコーティングを作り上げる物質で、強く、弾力性がある。
この真珠層の構造を模倣したガラスとアクリルの複合素材を開発、非常に強く、かつ不透明な素材を、簡単かつ安価に製造することに成功した。
更に、アクリルの屈折率を調整することで、ガラスとシームレスに混ぜ合わせ透明な複合材料を作り出す事が出来た。
ロストテクノロジー・フレキシブルガラス
こうした弾力性のあるガラスはローマ皇帝ティベリウス・カエサルの時代に発明されたと言われている。
古代ローマの作家、ガイウス・プリニウス・セクンドゥスやペトロニウスの記述に、「発明者は皇帝カエサルの前に特殊な素材で作った酒器を持ってきた。その器を壊そうとすると、粉々にならずにへこんだだけだった。」とある。
発明者は、その特殊な素材を作る方法を知っているのは自分だけだと言った。カエサルは、ガラスが金や銀の価値を下げるかもしれないと恐れて、その人物を処刑してしまった。
この当時のフレキシブルガラスの製法は誰も知らず、文字通りロストテクノロジーとなってしまった。
それから2000年経った今、ようやくフレキシブルガラスが世に普及するのかもしれない。