太陽フレアという言葉を聞いたことがあるだろうか。太陽表面の巨大な爆発現象の発生をこのように呼ぶ。
太陽フレアは太陽のみで完結するものではなく、地球にも影響が及ぶ。太陽フレアが起こる事で多数の波長域の電磁波が発生し、地球まで降り注ぐ。この事で地球を周回する人工衛星にも影響を与え、GPS等に問題が生じる可能性がある。
2021年の10月末に、大規模な太陽フレアで注意報が出ていたのは記憶に新しい。
このように電子機器に頼る人類にとって、電磁波を発生させる太陽フレアは身近な問題であり、宇宙天気予報センターでも定期的に観察されている。
「若い太陽」のフレアが10倍の質量のプラズマを噴出
コロラド大学ボルダー校大気宇宙物理学研究所の研究員である野津湧太氏は恒星のEK Draconisを観測していた所、我々の知る太陽フレアのおよそ10倍ものコロナ質量放出(CME)を噴出する能力がある事を確認した。
この恒星はまだ年齢が誕生後1億年と非常に若く、約45億年前の太陽に似ているという。尚、EK Draconisよりも44億も古くから存在する太陽ではこのような巨大なCMEが発生する頻度は低く、現在のところ穏やかな状態である。
しかし、CMEの上限を理解することは人類にとって非常に重要な意味合いを持つ。
太陽を理解する
前述したようにCMEのような高エネルギーの磁気噴火は、地球の大気と相互作用するばかりでなく、人工衛星を混乱させる磁気嵐、停電、ネットなどの通信の障害を引き起こす可能性がある。
これらはすでに人類にとって必要不可欠なインフラであり、命に関わるケースもある。現在の人類は電子機器に強く依存している。
そればかりでなく、CMEは月や火星への有人ミッションにとっても潜在的な危険性があるとNASAが警告する。太陽フレアは高エネルギー粒子の流れを送り出してくる。
地球は磁気シールドで守られているが地球のの外にいる人(宇宙ミッションに関わる人)は、胸部X線30万個分の放射線を一度に浴びることになる。人にとっては致命的な線量だ。
更に、地球の磁気は年々弱まっているとの報告もある。
宇宙でのミッションに関わる者は勿論、地球に住む我々にとってもCMEは身近な問題となっている。
大規模な太陽フレアの頻度
EK Draconisのような太陽に似た星がスーパーフレアと呼ばれる大規模な電磁放射のバーストを発生させる事は野津氏ら研究チームによって2019年に報告されている。
さらに、EK Draconisのような若い太陽のような星は毎週のようにスーパーフレアを発しているのに対し、地球の太陽のような年経た星は、おそらく1,000年に1度くらいの頻度でスーパーフレアを発していることも研究で分かった。
このようなスーパーフレアは、つまりは電磁波の爆発であり、それ自体は危険ではない。しかし、前述したようにスーパーフレアの何割かは、その後に大きなCMEが発生し、結果として危険が生じる。
そこで野津氏らは、若い太陽型の星でスーパーフレアが大規模なCMEを引き起こすかどうかを調べるために、EK Draconisに注目した。
太陽の10倍
研究チームは、2020年1月から4月にかけて、NASAの太陽系外惑星探査衛星TESSと京都大学のSEIMEI望遠鏡を用いて、111光年の宇宙空間からEK Draconisを観測した。
4月5日、EK Draconisが発する光のスペクトルに変化が見られ、地球に向かって進むプラズマの塊が確認された。
その質量は1兆kg以上で、今まで観測された太陽フレアの10倍に相当する。このデータは陽で発生するスーパーフレアを伴うCMEの可能性を推定する上で、非常に参考になるだろう。
太陽は過去に何度か大きな太陽フレアを放っていた
太陽フレアを初めて直接観測したのは1859年だ。ギリスの天文学者リチャード・キャリントンによるこの観測はキャリントン・イベントとも呼ばれ、初観測にして過去最大の太陽フレアである。
人類が太陽をまともに観測してデータを記録した期間はたったの200年だ。電子機器が発明される前は太陽フレアは体感できるものではなく、あまり目立たなかった。
だが、新たな研究で過去に様々な影響を与えていたことが判明した。
過去の太陽フレアによる地球上での影響
世界中で発見されている樹木では、774年と775年に炭素の放射性物質である炭素14が急増したことが分かっている。太陽からの高エネルギー粒子が地球の磁気シールドを貫通すると、原子の放射性バージョンを作り出すことがあるため、この原因が太陽フレアではないかと推測されている。
他にも紀元前2610年にも同様の大規模なイベントの兆候が見つかり、更に993年と994年にもフレアが発生した可能性があることが、2013年に学術誌「Nature Communications」に掲載された研究で判明している。
火星にはかつて地球のような厚い大気があったのではないかと考えられているが、火星が磁場を失ってから太陽からの高エネルギー粒子がこの大気を削り始め、最終的に火星は現在の無防備な状態になったという仮説もある。
EK Draconisのように太陽に居ていて比較的若い星の研究は、いずれ来るかもしれないCMEによる大災害に備えて対策や準備をするなど計画を立てる上で非常に重要だ。そして、地球を始め、太陽系の過去を知る事が出来る可能性もある。
近年、飛躍的な科学の進歩で数十年前に比べて宇宙へのアクセスのハードルは大きさがっている。最近でも民間企業による民間人の宇宙旅行が実現したばかりだ。
今後、宇宙の研究はさらに進み、多くの事が分かってくるだろう。その時、太陽フレアの秘密についても明かされるかもしれない。