宇宙はまだまだ分からない事ばかりだ。中でも暗黒物質(ダークマター)は宇宙の26.8%%を、暗黒エネルギーが68.3%と、宇宙の大半を占めると言われているにもかかわらず、両者ともその正体がなんであるか分からない。
空間を構成する物質が分からなければ出来ることが非常に限られてしまう為、科学者たちは何とか暗黒物質の検出が出来ないか日々研究に没頭する。
そんな暗黒物質のうち、アクシオンと呼ばれるコールドダークマターの検出に役立つであろう微弱な電磁場を検出できるベリリウム結晶の作成が、この度米国国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology)とコロラド大学ボルダー校(University of Colorado Boulder)の共同研究機関であるJILAによって成功発表された。
暗黒物質(ダークマター)とは
まず前提として、暗黒物質とは何であるかをおさらいしておこう。既に理解している諸氏は次のセクションへ進んでもらいたい。
質量は重力を発生させる為、天文学者たちは銀河で観測された物質の質量から、その重力の大きさを算出する事が出来る。
ご存知のように星は、星雲の中心を軌道に乗って高速で回っている。しかし、観測から算出された銀河はこれらの星を捉えておくに十分な重力が無い。本来なら軌道に乗らず放り出されてしまうはずだ。
ところが、実際にはそのようなことは無く星たちは軌道に乗って周回している。つまり、銀河を維持する為の何かしらの引力発生源がなければ説明がつかない。この発生源は暗黒物質(ダークマター)と名付けられた。
一時期は万有引力の法則ではパラドックスは起きず暗黒物質の存在の否定論もあったが、ビッグバン後に物質が引き寄せられる事象を説明できないし、何より重力レンズ効果(Wikipdia)を説明できない。
よって、観測は出来ないが、存在が無ければ説明がつかない為、仮説ではあるが暗黒物質は確実に存在している、とされている。この仮説を元に様々な観測方法がテストされている。
仮説の暗黒物質・アクシオン
アクシオンという仮説の暗黒物質がある。これはコールドダークマター(冷たい暗黒物質)と呼ばれている。
1996年から1998年にかけての東大宇宙線研究所による観測によって0だと思われていた質量が実は0では無かった事が証明されたニュートリノはホットダークマター(熱い暗黒物質)ではビッグバン後に個々の銀河がどのように形成されたかを説明することはできないが、運動エネルギーが質量エネルギーに比べて小さく、粒子の運動速度が遅いとされるコールドダークマターは宇宙の大規模構造に大きく関与しているとされている。
そのコールドダークマターの代表例が、未解決問題のひとつである強いCP問題(Wikipedia)を解決する仮説の上で存在が期待されているアクシオン(Wikipedia)だ。
アクシオンは質量が電子の約1億分の1以下という非常に微小なものであり、微弱ではあるが光子とお互いに反応すると仮説されているため、アクシオンの検出に光子を使う方法が採用される事が多く、特に磁場とアクシオンの反応によって光子を作る逆プリマコフ変換を利用した実験が多い。
微弱な電磁場を検出できるベリリウム結晶の作成
ようやく本題だ。JILAの原子物理学者であるアナ・マリア・レイ氏は、150個の荷電ベリリウム粒子またはイオンを電極と磁場のシステムを用いて捕捉し、それらの自然な反発を克服することで、この量子結晶の作成に成功した。
レイ氏らによって開発された電界と電極のシステムでイオンを捕捉すると、原子は自己組織化して髪の毛の2倍ほどの厚さの平らなシートになった。この組織化された集団は、何か外敵に邪魔されると振動する水晶のようなものだ。
そのベリリウムの「結晶」が電磁場に遭遇すると、それに反応して動き、その動きを電磁場の強さに換算することができる。しかし、量子力学系の測定には不確定性原理による制限がある。
研究チームは、この制限を回避する方法として、量子粒子の属性が本質的に結びついている「エンタングルメント(量子もつれ)」を利用することを考えたのだ。
不確定性原理により、イオンの移動量である「変位」を測定するには、精度に限界があり、量子ノイズと呼ばれるものが多く含まれている。変位を測定するには、量子ノイズよりも大きな変位が必要だ。
ベリリウムイオンの運動とスピンを絡める事でノイズを拡散させ、ノイズを減少させることで、結晶の超微小な揺らぎを測定することができる。この結晶は、これまでの量子センサーに比べて、微小な電磁信号を検出する感度が10倍になるという。
研究チームは、ベリリウムイオンの数を増やせば、アクシオンを検知できる、より感度の高い検出器を作ることができると考えている。
アクシオンの探索
アクシオンの探索は他にも様々な方法がテストされている。例えば日本では2019年に京都大学、東北大学の研究グループが、原始惑星系円盤の観測によるアクシオンの探査法とその研究結果について発表している。
観測の精度は過去最高の99.98%に達したが、素粒子物理学の世界で発見と認められるには、99・9999%が必要とされる。今回の微弱な電磁場を検出できるベリリウム結晶の作成によって、更に精度が増せばより発見に近づく為、大きな期待が寄せられている。