ペットボトルは世界でも一般的に利用されており、普及率も非常に高い。日本でも外を出ればどこかしらにペットボトルのゴミを必ず目にするだろう。
日本ではリサイクルのインフラが整った1993年以降、爆発的に普及した。ゴミ問題として頻繁に上がるペットボトルだが、日本のリサイクル率は80%以上だ。アメリカの20%以下や欧州の40%以下と比較して非常に高いリサイクル率を誇る。
一見悪くないように見えるが、実は大きな問題を抱えている。ペットボトルのリサイクルフローは、分別→異物除去→梱包(ベール化)→粉砕(フレーク化)→再生品化となっている。再生品は同じペットボトルや食品トレー、ラベルなど、同様にプラスチック製品となる。
いくらリサイクル率が高くても、石油から作られるペットボトルはプラスチック以外にはリサイクル出来ない。基本的にマイクロプラスチック等の問題は解決できないシステムに過ぎないのが現状だ。
新たなリサイクルシステムの開発
とはいえ、全てのペットボトルが石油を原料としている訳ではない。ビニール袋にも植物由来(バイオマス)のものがあり、有料化の対象外となっているが、ペットボトルにも植物由来のペットボトルが増えてきている。
そんな植物由来のペットボトルを肥料に変えるリサイクルシステムを東京工業大学が開発した。
植物由来のペットボトルをアンモニア水で分解し、肥料となる尿素に変換。生成された尿素は植物の成長促進になる事も実証した。廃棄問題に加えて人口増加に伴う食糧不足問題の解決にも貢献しそうだ。
この研究は「Green Chemistry」誌にも掲載されている。
ハーバー・ボッシュ法が鍵
今回の新リサイクル法の背景にはハーバー・ボッシュ法がある。ハーバー・ボッシュ法は1906年に開発されたアンモニアの合成法で、鉄主体の触媒を使い、空気中の窒素を水素と直接反応させてアンモニアを生産する方法だ。
この方法で合成されるようになったアンモニアは、化学肥料(尿素)に変換され、食料の生産量を飛躍的に高めた。研究チームは、カーボネート結合を有するプラスチック(ポリカーボネート)がアンモニアと反応して尿素に変換されることに着目し、この新リサイクル法を作り出した。
ポリカーボネートは、高い耐熱性、優れた強度、透明性を有すリサイクルの需要が大きいものとして期待されており、働く尿素とグルコース(糖)由来のイソソルビドに分解できる上にアンモニアによる分解反応は、加熱するだけで促進できるため、高価な触媒を必要としない。
つまり、今回の新リサイクルシステムを実証する上で理想的なプラスチックだった。特にリサイクルにはコストが問題となる事が多いため、コストがかかりにくい点は実現の可能性を大きく高める。
ペットボトルがパンを生む時代へ
ハーバー・ボッシュ法は「水と石炭と空気からパンを作る方法」とも「平時には肥料を、戦時には火薬を空気から作る」とも称された画期的な生成法だ。ハーバー氏もボッシュ氏もノーベル賞を受賞している。
今回のリサイクル法はハーバー・ボッシュ法を利用し、高価な触媒不要で難しい操作もなく生成できるものだ。
Fertilizers Europe(欧州の肥料産業団体)によれば尿素に代表される窒素肥料によって生産された食料は世界人口の50%を養っているという。
今回の新リサイクルシステムは糖(イソソルビド)を再生するだけでなく、植物の成長を促進する尿素を与えられる点が主な特徴だ。ゴミとなっているペットボトルが本りサイクルシステムによって「プラスチックのゴミ問題」と「人口増加による食糧不足」の両問題の解決に貢献するものだ。
この実現には本システムを既存のリサイクルインフラに落とし込む必要があるのと、ペットボトルを始め、プラスチックを生成する企業が植物由来のものに切り替える必要がある。例えば100%植物由来のペットボトル開発に成功したのはまだ2015年と最近の話。
他企業の追従にはまだまだ時間が必要だ。課題は少なくないが、ペットボトルがパンを生む時代へ、一歩前進したと言えるだろう。