過去の事を知るのは非常に難しい。例えば現代でも犯罪の立証には、知っての通り様々な技術と知識が使われるが、それでも難しい場合もある。
とはいえ不可能ではない。どんなに昔の事でも要は条件さえ揃っていれば良い。これは数日前だろうと数百年前だろうと、それこそ太古であろうと同じ事だ。
何かが起きた時に、運が良ければその痕跡を残す事がある。例えば殺傷事件等が起きた時に血痕を洗い流す等で証拠隠滅を図ったとする。だが、血液内のヘモグロビンに含まれる鉄がそのまま残っている事が多く、ルミノール反応やヘモクロモーゲン結晶検査などで、「血液が付いたが洗い流された」という痕跡が残されており、科学的に証明できるのはよく知られている。
このように、その日その時に何が起きたかはそのタイミングでどのような痕跡が残されたかで証明できる場合がある。
代表的な「放射性炭素年代測定」
例えば大昔の遺物が発掘された時、その遺物がいつの時代のものかを特定する方法の1つとして放射性炭素年代測定という手法がよく用いられる。
放射性炭素年代測定とは自然の生物圏内で放射性同位体である炭素14 (14C) の存在比率が1兆個につき1個のレベルと一定であることを基にした年代測定方法だ。
無機質や金属には使用できない欠点があるが、多くの場合、動物や植物の痕跡が残されている為、ある程度特定できる事が多い。
過去の太陽フレアの痕跡を使用した特定法を確立
人間社会における物流は、思った以上に古くから大きく形成されていた可能性が高い。例えばコロンブスが見つけるより前に交易が生活の一部だったイタリアの船乗りがアメリカを知っていたり、紀元前のキプロスでインドやエジプト、中東などの物が発見されたり、といったものだ。
だが、この物流にかかる移動の速度や影響を示すタイムラインを作成するのにはとても苦労していた。公開記録が残されていればある程度想定可能だが、それでもやはり正確な時間を特定するのに難儀していた。
ところが、デンマーク国立研究財団のオーフス大学アーバンネットワーク進化センター(UrbNet)の学際的研究チームが、過去の太陽フレアに関する天文学的知識を応用し、当時の正確なタイムアンカーを確立することにより到着した正確な時刻を特定する方法を確執させた。
この研究は論文として「nature」誌に掲載されている。
日本人の研究者、三宅 芙沙氏の研究がヒントに
放射性炭素年代測定法は非常に有益な検査法だが、年代幅が広いというのもあって、適用範囲が限られていた。しかし、最近になって日本人女性研究者、三宅 芙沙氏によって太陽粒子事象が、大気中の放射性炭素を単年度で急激に上昇させることを発見した。
この現象を特定する事で放射性炭素年代をこの1年前後に固定することが可能となった。この方法を用いてイキング時代の始まりである西暦790±10年に正確に年代測定ができるようになったのだ。
例えば、この方法論からスカンジナビアの海運がロシアを通じて中東との貿易が盛んになったことに呼応して始まったという説に疑問を投げかける事が出来る。中東に刺激されて交易ネットワークが拡大する何十年も前に、海上交易ネットワークと長距離貿易はすでに確立されていた事が分かる。
三宅イベントが鍵となった
オーフスAMSセンターのイェスパー・オルセン准教授は以下のように語る。
「校正曲線の作成は、世界中の多くの研究室が参加する国際的な大きな取り組みです。2012年の三宅氏の発見によって、私たちの仕事は大きく変わり、今では年単位の時間分解能で仕事ができるようになりました。新しい校正曲線は定期的に発表され、最近では2020年に発表されましたが、オーフスAMSセンターが大きく貢献しています。今回の高分解能データは、今後の検量線の更新に反映され、世界中の考古学的年代測定精度の向上に貢献することでしょう。この研究は、過去の貿易の流れや環境の変化など、急速な発展を理解するためのより良い機会を提供します」
この新しい成果により、新しい遺物の流入や広範囲に及ぶ接触について、より良い背景で年代を測定することができる。バイキング時代を可視化し、説明する上で、科学者にとって大きな価値があるだけでなく、一般の人々にも新しい洞察を示すのに役立つだろう。