モザイクアートというものを知っているだろうか。古来から世界各地で採用されている絵画手法で、石やタイル、貝殻、ガラスや木片など細かい素材を集めて絵を描く技法だ。
モザイク画法は紀元前から行われている、今の水彩画や油絵よりも古い絵画手法だ。いわゆる絵の具が無い時代に考えられた「色を使う絵画手法」であり、その技法は地中海地域を中心に世界へ広がりを見せた。
そのモザイクアートのローマ時代のものがイギリスの農家の畑から見つかったという。
英国で初めてローマ時代のモザイクを発掘
イギリス考古学チームはラットランドの農家の畑の下に埋もれていたモザイクアートを発掘し、デジタル・文化・メディア・スポーツ省（DCMS）によって保護された。このモザイクアートはローマ時代のもので、富裕層の別荘群の床に敷かれたものだという。
土地所有者であるブライアン・ネイラー氏の息子であるジム・アーバイン氏が2020年のロックダウン中に見つけたもので、地元当局の遺産アドバイザーであるレスターシャー郡議会の考古学チームに連絡した。
モザイクアートはレスター大学考古学サービス（ULAS）の考古学チームによる調査の結果、非常に歴史的価値の高いものと分かったためDCMSによって指定記念物として保護されたものである。
ギリシャの英雄アキレスの物語
勇者アキレスを題材にしたフルモザイクの画像。（出典：ヒストリック・イングランド via scitechdaily）
このモザイクアートは紀元前の詩人・ホメーロスの『イーリアス』のワンシーンを表現したものでギリシャの英雄アキレスを中心としたトロイア戦争終結時のヘクトル戦の物語が描かれている。
イギリスでローマ時代のモザイクアートが見つかったのは初めて。モザイクアートは紀元3世紀から4世紀にかけてのローマ時代後期に建てられた大規模なの富裕層の別荘群の床に描かれており、サイズはおよそ11m×7mほどだ。
ローマ帝国でのモザイクアートの多くは民間や公共施設に使用され、歴史や神話の中でも特に有名な人物が描かれることが大半だ。今回見つかったモザイクアートもアキレスとヘクトルは有名な人物ではあるが、ヨーロッパ中でも数が少なく大変貴重なものと思われる。
埋もれていた理由
発掘しているレスター大学考古学メンバー。（出典：ヒストリック・イングランド via scitechdaily）
なぜこのような見事なモザイクアートが今まで見つからずに1500年もの間、地中に埋もれていたのか。
モザイクアートを覆っていた瓦礫の中から人骨が発見されており、建物が使用されなくなった後に埋葬されたと思われる。また、火災による損傷やモザイクの切れ目から再利用された可能性も浮上した。
この別荘群の周辺には通路付きの納屋や円形の建物、浴場と思われるものなど、さまざまな建物が存在していた。これらの建物は、古典文学に精通した裕福な個人が住んでいたと考えられる。
もともとモザイクアートの施された公共施設として利用されていたものを富裕層が買い取り、別荘地として再利用、その持ち主が建物と一緒に埋葬された、というのが考えられるシナリオの1つだ。
私有地の遺跡をどう扱うか
モザイクアートは現在も使用中の農地で見つかった。（出典：ヒストリック・イングランド via scitechdaily）
前述したようにこのモザイクアートは私有地、それも畑の下で見つかった。同時にその重要性から指定記念物として保護され、盗掘などの被害から守られる。
もちろん、この地の下に貴重な歴史的遺物があるとは所有者は夢にも思わない。遺跡は濃厚作業によって一部破壊されてしまっていた。
ヒストリック・イングランド（イングランド歴史的建造物・記念物委員会）は土地所有者と協力して、これらの畑を元の草地や放牧地に戻すことを支援すると発表。徹底的に調査・記録され、埋め戻される。
このような農業環境計画は、歴史的環境と自然環境の両方を保護するために不可欠なものだ。現在、ラットランド郡議会との間で、別荘群とその出土品を現場以外の場所で展示・解説する機会を探るための話し合いが行われている。
この遺跡は前述しているように私有地のため、一般公開される予定はない。2022年初頭にBBC TwoとiPlayerによるプログラム「Digging for Britain」の一部として紹介される予定だ。
古代ローマとモザイクアートの歴史を紐解いてみよう。
